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「きっと君が望んでいるであろう物を、ボクはあげられない。何故ならそれを持ち合わせていないからだ」
男は淡々と語り続けた。
「泣かないでくれよ。君が泣いたとしても、ボクはそれを手に入れられないだろうし、はっきり言わせてもらえば、これっぽっちも欲しく無いんだ。泣きわめく君を見てるのは確かに辛い。でもそれ以上に、君の望むままにする自分を想像するのは、屈辱に値するんだよ。そういった所で、君には言葉の本質と言う高貴で清潔な物の半分も理解しえないだろうね」
背広を椅子にかけ、ゆっくりと紅茶を飲む。一息ついた後、また語り出す。
「大体、自分が何もしないのに、誰かに望みを叶えてもらおうとするその意地汚い根性を棚に上げておいて、人を批難するのは、狂気の沙汰だと思うね。もし万が一、ボク達が結婚したとしよう。最初一ヶ月は君は家事に勤しむだろうね。二ヶ月、三ヶ月と月日が経つに連れて、君は何もしなくなる。大量に購入した料理本は埃を被って、替わりに家政婦の作った料理がテーブルを埋め尽くす。自分が作っていないのだからと後片付けもしない。掃除なんて以っての外だろうね。毎日毎日家に居て何もせず食うだけだから、ぶくぶく家畜のように太っていく。肉は霜降り、内蔵はフォアグラにでもなるんだね。半年前まで着ていた桃色のドレスはバスタオルになる。コルセットはテーブルクロスか雑巾。巨体でベッドが軋んで、ボクは弾き飛ばされるようになる。こんな暗黒の未来を、誰が望む?」
男がそう言い終えた時、部屋に美しい桃色のドレスを着た女が入って来た。
「私に話ってなに?」
「愛しのエリザベス、ボクと結婚しておくれ」
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