ステキな素敵な、サインコサインジェントルマン

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いつもより早い時間に起きてしまった時は、先ずは珈琲を煎れる。次にテレビを点けて、朝食を作り始める。10分もすれば目玉焼きとトーストが出来る。熱い珈琲をカップに注ぎ、テーブルにそれらを並べる。深夜と早朝に起きた事がニュースで伝えられる。地震、戦争、経済難。どれもこれも関係無い。直接的影響がない限り、世界は余りにも小さく狭く浅い。 一息ついた頃に、新聞が届く。事細かな地域のニュースに目を通すと、世界は大きく広く深くなる。海を跨いだ事などに、誰が関心を寄せるのだろうかと疑問に思う。隣の家にさえ関心を示さないのにだ。 パジャマを脱いでシャワーを浴びる。下ろし立てのスーツに着替えれば出勤まで後30分。ゆっくりと窓の外を眺めて、時間を潰す。濁った空には様々な物が飛んでいる。広いけど、狭い世界を駆け巡る。家の中にいるのも、外に出るのも変わらない。今の世界は形だけで中身は無い。それは私も同じなのだろうか。この体は、偽りなのだろうか。 出勤まで10分を切った時に、会社に欠勤すると連絡する。ネクタイを緩め、車に乗り込む。スピードはぐんぐん上がって行き、あっという間に空を飛んだ。数十年前には考えられなかった事が、今や当たり前となっている。車が空を飛んだからって、これっぽっちも世界は広がらなかった。ラジオから緊急放送の電子音がした。 「つい先程、最後の人類が老衰により死亡しました。享年162歳でした。繰り返しお伝え…」 この世界から人類がいなくなったからと言って、世界はこれっぽっちも、小さくも大きくも、広くも狭くも、浅くも深くもなりやしない
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