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○月×××日。
今日は、記念すべき最初のお客様が来店した!
昨日と同様に、客席の窓を全て開け、コーヒーの香りを外へ流した。
すると、1人の男性が店にやって来たんだ。
男性は言った。
『新聞、取りませんか?今なら洗剤付けます』
私は、男性を客席に座らせ、静かにコーヒーを入れた。
初めてのお客様だ、緊張して、カップにコーヒーを注ぐ手が震えたよ。
男性は、チラチラと私を横目に見ながら、変な汗をかいていた。
今日はそんなに暑くない。
変わったお客様だ。
新陳代謝がいいんだな。
なんて思いながら、男性にコーヒーを運んだ。
男性は、何か用事でも思い出して焦っていたのだろうか?
急いでブラックのまま、一気に飲み干した。
入れたてのコーヒーは、とても熱々だ、口の中を火傷してしまう。
なにより、もっと味わって飲んで欲しかったな。
急いで氷入りのお冷やを持ってこようとした瞬間、
やはり、熱さに耐えられなかったのか、男性はコーヒーを口から思い切り噴射させた。
その一部が、私の腕にかかった。
とても熱かった。
氷のうを作り、腕を冷やす私の足元で、男性は何故か、床にめり込むほどの土下座をしながら、3万円を差し出していた。
ウチのコーヒーは一杯、400円だ。
この男性の舌は、3万円の価値があると評価してくれたのか。なんだか照れ臭い。
受け取って良いものか迷っていると、男性は、『命だけはご勘弁を』と、泣きながら、更に2万円を追加した。
そんな、命を落とすほどの美味しさだったなんて!
私は感動したよ、ミドリ。
お金は、有り難く受け取ったよ。
あと、申し訳ないけど、コーヒーを吹いて汚してしまったテーブルクロスのクリーニング代として、同じ額を支払ってもらったよ。
男性は顔をグシャグシャにしながら帰られた。
けど、洗剤を忘れて帰ってしまったんだ。
また次に来られる日まで、取っておこう。
小さな真心を忘れてはいけない。
お客様は大切にしなきゃね。
あぁ、今日は素敵な1日だったなぁ。
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