白の記憶

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その華は、しんしんと雪の降る、月夜の白い平野にただ一輪だけ咲いていた。 月光を受け淡く輝いているが、しかし、その輝きは嘆き悲しんでいるように儚い。 「やっと・・・見つけた・・・。」 ぼぅっとした輝きに引き寄せられるように、その女は現れた。 もともとは防寒着だったのであろう厚手の着物はボロボロで、防寒用のブーツさえ擦り切れている。だが、その眼は力を失っていない。強い意志と強い願いを兼ね備えたしっかりとした眼である。しかし、どこか危うさを感じさせる強さ…すぐに崩れそうな脆さと儚さを、その瞳の奥に見て取ることも出来る。 「この華があれば・・・あの人の・・・・。」 ふらふらとした足取りで華に近づく。時折、雪に足を取られ転びそうになるが、そのたびに堪え、一歩一歩確実に華に近づく。 そうして、その女は華にたどり着いた。そして、崩れるように膝を突き、華をその手に取ろうと腕を伸ばす。 「この華が・・・あの人の願いを・・・・・。」 しかし、その手が華を取ることはない。 先ほどまで、強さを感じさせた眼は既に光を失っており、伸ばした手に引き摺られるように、その女の体は雪の上に倒れ臥した。
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