1・謎残る一件落着

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{1} 「雪美……」 桜は、独り木陰のベンチに座り、大学のグラウンドの風景をぼんやりと眺めていた。 抜ける様に広く真っ青な初夏の空…。 どこか遠くでセミの鳴き声が聞こえる…。 今日も暑くなりそうだ…。 今月に入ってから暑い日が続いている。 学校は、数日前から夏休みに入っていた。 桜が所属するバレー同好会も今日は、休み。 今日、グラウンドには桜以外の人の姿は、無い。 「雪美……」 この大学で起こった 恐ろしく悲しい事件…。 あれから一ヶ月が過ぎようとしていた…。 あの晩、桜から事情を聞いた黄久郎は 「なんか心配だな…。学校へ行ってみよう!」と主張し、桜と一緒に大学へ行った。 そして! 彼等が大学の正門前に到着した時…(時間にして夜の9時を少し過ぎた頃)一人の男が雪美に向かってナイフを振り上げていたのだった!! 駆け付けた黄久郎に殴られ気絶したその男は… 回復後、意外とアッサリとそれまでの犯行を警察で自供した。 男の名前は黒木宅男。 当時、世間を騒がせていた通り魔は、彼だったのである。 予備校生の黒木は、毎週月曜日に味野書店でレジのアルバイトをしていて、犯行はその帰りに行っていた。 しかし… 彼は青衣と金淵を殺した犯人だけは自分ではないと強く主張した。 確かに最初は、大学に忍び込もうとしたのだが… 校舎に入ろうとした所を守衛(名前は田山耕作)に見つかり、彼を刺殺したその後で 「やはり危険では…」 と考え直し、校舎には入らず正門広場にある植え込みの陰で、ずっと『獲物』が出てくるのを待っていたと言うのだ…。 (ちなみに、田山の死亡推定時刻は夜の7時から9時の間) 「あの晩…もし正門から帰ってたら…私も…」 桜は、遠くを見つめた。 もし大学の正門から帰っていたら… 桜も、雪美や守衛と同じように通り魔の黒木に襲われていたかもしれない…。 あの晩… 彼女は、いつもの様に大学の正門から帰ろうとしたのだが… 正門に向かう途中で例の『嫌な胸騒ぎ』が急に激しくなり、とっさの思い付きで裏門から帰ったのだった…。
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