火蓋は切って落とされた

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火蓋は切って落とされた

一目惚れだった。 思えば生きてきた人生初めての一目惚れだと思う。 信じられないスピードであっさりと恋に落ちた。 今でも覚えてる。 体の中を突き抜けるような衝撃が走った、彼との出会いを。 ─────────────── 私は受験に失敗した。 第一志望の大学には落ち、第二、第三志望の大学にもことごとくフラれた。 引っ掛かったのは滑り止めの滑り止めに受けた大して行きたくもない三流大学だけ。 高い学費を払ってまで行きたくないと駄々をこねてみたけれど、奨学金も貰える事になっていたから仕方なく行くハメになった。 私の人生は終わった。 高校三年間、じっくり練った人生計画はあっさり崩れてしまった。 せっかく受かったんだから新しい事を見つけに行きなさい、という担任のありがた迷惑な言葉を胸に嫌々ながらの大学生活を迎える事になったのだ。 入学式前日、オリエンテーションの為に大学へ来ていた私は校内地図を片手に講堂を目指した。 無駄に広い敷地には緑が多く、校舎のノスタルジックな雰囲気はいい感じ。 どこか一つくらい良い所を見つけないとやって行けそうにない。 アンティークな階段を上り講堂へ入った。 私はこの真新しい空気が嫌いだ。 新しい環境に慣れるのに、私は人より時間がかかる。 他の学生が集まる中、一番後ろの端っこに座った。 片手で頬杖つきながら渡された資料を流し読みしていた。 その時、フッと爽やかなシトラスの香りが私の隣を通り過ぎた。 その香りを目で追うと、私の一つ前の席に誰かが座っている。 きっとこの香りの持ち主だ。 気になるけど話す事もなく、目が離せなくてその背中をいつまでも見つめていた。
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