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「今日?ごめんね、私英介と出かける約束してるんだ」
実花子と英介はいつの間にか付き合うようになっていた。
だからと言っていつもの四人がバラバラになる事もない。
ただこうして少しずつそれぞれの時間が増えていく事は、やっぱり寂しいと思ってしまう。
仕方ない事なんだけど。
誘いを断られた私は、一人で行く気にもなれずにどうしようか考えていた。
午後の講義を終えて、桜舞う大学前の長い階段をブラブラと歩く。
暖かい日差しの下、私に一つの名案が浮かんだ。
会場である居酒屋へ少し早めに行くと、すでに飲みはじめている彼と、同じ学部の先輩達がいた。
「おー!泉、来たかぁ!」
そんな声はお構い無しに彼の隣に座る。
ぴったりと寄り添いすりつく私を彼がひっぺがした。
「やーん!いいじゃんちょっとくらい!」
「バカかテメーは!調子乗んな!」
ギャーギャー騒ぐ私達を面白そうに笑う先輩達の声。
彼は顔を真っ赤にして怒り出した。
「ホンットいい加減にしろよな!訳わかんねー噂たてられて迷惑してんだぞこっちは!」
「手原ぁ、そう言うなよ。泉の気持ちも分かってやれって」
掴みかかる彼と、それでもべたつく私を楽しそうに眺めながら先輩が口を挟んだ。
すっかりできあがった雰囲気にその場が和む。
不機嫌そうにソッポを向いた彼に、周りには聞こえないよう私は耳元で囁いた。
「あの子に変に思われちゃ困るもんね?」
バッと私を振り返り、ポカンと見つめるその目を複雑な気持ちで見つめ返した。
怒りで赤くなった顔は、羞恥でますます赤くなっていく。
「お前…」
「知らないとでも思ったぁ?」
にっこり笑ってバンバンと彼の背中を叩いた。
私は上手く笑えてるだろうか?
分からないけど、笑ってなければ今にも涙が出そうだった。
外れて欲しかった私の言葉が的を射ていたのを、彼の目を見れば分かってしまったから。
「あれ?そういえば泉、実花子ちゃんは一緒じゃねーの?」
先輩の声と同時に扉が開いた。
その姿に一番驚いていたのはきっと彼だと思う。
私は手招きをして彼と私の間に座らせた。
「実花子は英介とデート!だから今日は朱鳥ちゃんを誘いました~!」
朱鳥ちゃん、彼の好きな女の子。
こうでもしないと二人が近づく事なんてまずない。
慣れない場に居心地悪そうにソワソワする彼女と、やや混乱気味の彼の姿を虚ろに眺めた。
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