四回戦

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多分、彼の気持ちに気付いてるのは私だけだと思う。 彼は私にキレる時以外あまり自分の感情を大っぴらにする事はない。 二人で話してる時の彼の、嬉しそうな顔を見ると胸が詰まった。 本当に彼女の事が好きなんだなぁと改めて思い知った。 自分が仕組んだ事だけど、二人が並ぶ姿はやっぱり見ていて辛い。 私は運ばれてきたビールを一気に飲み干し、席を立った。 「すみません!私この後ちょっと用事あるんでお先に失礼します」 「えぇー!マジ?泉帰んの?」 私は答えず、笑顔を返して居酒屋を出た。 大股でズンズン歩き、家路を急ぐ。 涙が次々流れて止まりそうにもなかった。 次の日、何となく彼と顔を合わすのが嫌だった私は図書館でサボっていた。 この図書館では昔の映画を見ることが出来る。 小さなブースは学生達のベッド代わりにもなっていた。 ヘッドフォンをつけてソファに寝転ぶ。 あの二人はどうなったかな? そんな事をぼんやりと考えながら目を閉じた。 ふいにヘッドフォンからの音が小さくなり、不思議に思って片目を開く。 「何やってんの?」 私のヘッドフォンをずらし、顔を覗き込む彼の目がすぐ近くにあった。 あまりに急な彼の出現に私は言葉を失う。 「サボりか?珍しい」 狭いブースの中、息がかかりそうな程近い。 ん?と首を傾げる仕草に私の胸が爆発した。 「のわぁぁあ゙あ゙あ゙!」 声は静かな図書館にこだまして、周囲から痛い視線が突き刺さる。 「おめぇは…バカか!なんつー声出すんだよ!」 「だって!シンちゃんが悪いんじゃない!」 ギャーギャー騒ぐ私達にますます鋭い視線が注がれ、私達はそそくさと図書館を出た。 食堂のカフェで並んで座り、二人でコーヒーを飲む。 普段は嫌な沈黙も、余計な事を聞きたくない今の私には丁度良かった。 タバコに火を付けてゆっくりと吸い込む。 「最近またタバコ吸ってんだ?」 私を見ないで彼は口を開いた。 何も言わず、煙の輪を作りながら遊んでいる私に一つため息をつくのが聞こえた。 「お前、何で気付いたんだよ」 彼は何故気付かないんだろう。 私はいつも彼を見ていた。 彼が誰を想い、誰を見ているかなんて聞かなくても分かる。 そんな事も分からないなんて、これじゃ私の気持ちが届く訳もない。 だからこそ私はいつも全力で想いをぶつけてきた。 「シンちゃんが好きだからだよ」
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