四回戦

4/4
前へ
/39ページ
次へ
いつになく真面目な私の顔に、彼の表情は固まる。 そんな目で見てほしくない。 私は無理矢理笑った。 「私が恋をしてるから、シンちゃんの気持ちが良く分かるんだよ」 短くなったタバコを消して、彼の目を見ず立ち上がった。 「今日、講義出ない。実花子に代返頼んどいて」 彼に着いてまわるうちに、いつの間にか勉強も出来るようになっていた。 思わぬ追加効果。 彼と一緒にいたいがために出ていた講義を、この日初めてサボる。 この現実を割りきるのには、すごく時間がかかるだろう。 「泉っ!」 呼びかけられて振り向くと、彼は恥ずかしそうに頭をかきながら言った。 「…ありがとな」 その言葉に私は今までにないくらいドキッとした。 こんな事でお礼なんて、言われなくなかったけれど。 涙がこぼれないように、私は笑って見せた。 こうして少しずつ、みんながバラバラになっていくのかと思うと、急に切なくなった。 家に帰りベッドでゴロゴロしているとインターホンが鳴った。 まだ昼下がり、心当たりのない来客に首をかしげながらドアを開く。 「実花子…英介も?どうしたの?」 二人は両手にコンビニの袋を下げている。 「泉、飲もっか」 二人の意図が何となく分かった。 彼の気持ちに気付いてから、私は気持ちを抑える事を覚えた。 でもそれは思っていた程難しい事じゃない。 彼の気持ちが伝わればいい。 本気でそう思ってる。 そう言うと英介は私の頭をなでてくれた。 「大人になったじゃん」 不思議と涙は出なかった。 私の恋はゆっくりと、でも確実に終わりに向かって進み出している。 その事実が悲しかった。 ─────────────── 私は何事にもそんなに器用ではなかった。 八方美人な所が、同時に私の首を締め付けている事にも気付いてなかったんだと思う。 彼が幸せならそれでいいなんて、思ってはみるけど納得なんていかなかった。 頑なな私の恋心に、私自身どうすればいいのか分からなかった。 ただ、終わりにするには丁度良い季節だったのかもしれない。 大学も卒業間近になり、それを恋を終わらす適当な理由にした。 あの時初めて、自分の気持ちから逃げたんだ。 後悔すると分かってても。
/39ページ

最初のコメントを投稿しよう!

41人が本棚に入れています
本棚に追加