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五回戦
朱鳥はとても綺麗な女の子だった。
特別目立つ感じではなかったのに周りを惹き付ける魅力が確かにあった。
控え目な性格でおしとやかで上品。
頭も要領も良く、何でも器用にこなした。
私とは正反対だった。
私はどんなに釣り繕っても上っ面だけでしかなく、育ちの悪さは隠しきれず、女の子らしさなんて持ち合わせてはいなかった。
彼の気持ちに気付いた当時、私にだってプライドはあったからそれは張り合ったものだった。
どんなに頑張っても私と朱鳥では天と地程の差があって、比べ物にすらならない。
だからますます惨めな気持ちになった。
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夢も希望もないまま過ごした三年間、進むべき道を見つけられずに白紙の進路調査用紙を睨んだ。
この先の人生計画を立てなければならないのに、私は何も考えられないでいる。
「難しい顔しちゃって、どうしたの?」
あの日から私は朱鳥と仲良くなった。
拒む理由はなかった。
朱鳥はいい子だし、すぐに好きになったから。
「うん…卒業したらどうすんの?」
私はお昼のサンドイッチをかじりながら朱鳥に尋ねた。
「んー?私就職決まってるもん」
そう言って胸を張る仕草が何とも可愛い。
彼が惚れるのも分かる気がする。
羨ましいやら腹が立つやら、忌々しい目で朱鳥を見つめた。
「なぁに?」
ほわっと微笑み見つめ返され、気が抜けた私はベシャっと机に突っ伏した。
彼女は彼の気持ちをまだ知らない。
仲良くなり、二人が一緒の所を嫌でも見なくてはならない。
二人が付き合ってるなら気持ちの切り換えだって出来るのに、相変わらず仲良しな友達のまま。
それが私には理解できなかったし、歯がゆかった。
「泉、何してんの?」
遅れてやって来た実花子に肩を叩かれ、膨れっ面で頭を持ち上げる。
「…別に?」
クスクス笑い、お弁当を出しながら実花子は朱鳥を見た。
「あれ?朱鳥、先生呼んでたよ?」
「あっ!いけない!忘れてた。行かなきゃ!」
慌ててお弁当を食べ、朱鳥はいそいそと席を立った。
うん、可愛い。
小さな後ろ姿を見送りながら、気になっていた事が口からこぼれた。
「シンちゃん、何で朱鳥に告白しないんだろう」
私の問いかけなんか聞こえてないかのように、実花子は何も言わずにお弁当をつついている。
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