五回戦

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釈然としない気持ちを紛らわそうとタバコをくわえた時、ふいに後ろから頭を小突かれた。 「俺はどっかのバカみてぇになりふり構わず突っ込む事なんてしねぇよ」 そのバカにしたように言い放つ彼の言葉に若干の腹立ちを覚える。 彼は私の向かいに座ると、食堂で買ったカップラーメンをすすった。 「そんな事言って、フラれんのが怖いんでしょ~?」 わざとらしく口の端を持ち上げて意地悪を言ってやる。 彼は特に気にするでもなくラーメンに夢中だ。 全く相手にされてない? 「…根性ナシ」 ボソッと呟いた言葉が聞こえてしまったのか、彼は箸をくわえたまま私を見据えた。 「あぁ?んだと?」 「べっつに~?まぁ、フラれても私が慰めてあげるから当たって砕けちゃいなさいよ」 ケラケラ笑ってその場を収めようとしたのがまずかったのか、彼は機嫌悪そうに頬ずえをついた。 「間違ってもテメーの世話になんかなんねぇよ」 「せっかくお膳立てしてあげたんだから、無駄にしないでって言ってるの」 彼があの子を好きになって一年は経つ。 とっとと付き合えばいいのに。 私の行き場のないこの想いからも解放して欲しい。 彼に彼女ができたからって諦めがつく訳でもないけれど。 私は自分の都合で彼等が恋人になればいいと思っている。 彼の幸せを願うフリをして、ホントは終わらせたいだけなんだ。 最低だよ。 「何でお前がムキになってんの?」 「ムキになんかなってないもん!」 そんな険悪なムードを断ち切るように実花子が口を挟んだ。 「泉、さっきから気になってるんだけどその紙何なの?」 私は机の上の進路調査用紙を改めて見下ろした。 「んー?これ?私まだ進路決まってないんだよね」 ため息混じりに用紙をつまみ、ぴらぴらと泳がした。 「やりたい事ないの?」 落ち着き払った様子の実花子ももちろん仕事は決まっている。 私は情けなくて何も言えなくなった。 この大学に来て、私は彼を追いかけるばかりで何の目標も見つけられていない。 自分の人生に現実味を帯びてきた今、焦りはあるのに動き出す事ができない。 私はくわえていたタバコにやっと火をつけた。
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