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ひらひらと目の前を泳ぐ用紙を彼が鮮やかな箸さばきで掴んだ。
怪訝な顔をする私にお構いなしでその紙をまじまじと見つめている。
「あ、この紙俺ももらった」
「え?真一もまだ進路決まってないの?」
意外だと言いたげな実花子が驚いた様子で言った。
確かに彼は頭もいいし、とっくに将来は決まっているものだと思っていた。
「何かさー、やりたい事なんて大学なんかで見つからねーなぁと思ってさ。何しに来てんだろな俺」
彼は用紙を私の前に戻し、大きく伸びをした。
「そりゃシンちゃんは私と出会う為にここへ来たんでしょ!赤い糸のお導きねっ!」
「そんな糸があるならこの場でぶった切ってやらぁ!」
予想していた反撃だけど、彼の気持ちが他の女にあると分かった今その言葉は結構傷つく。
「でも真面目な話、やりたい事があったから二浪もして大学入ったんじゃないの?」
そういえば、何故彼が大学へ来てるのか、将来どうするつもりなのか、彼自身の事はほとんど知らない。
三年も一緒にいたのに、私はそんな肝心な所を全く見てなかった。
私の言葉に、彼は鼻で笑った。
「まさか。働くのが嫌だったから大学来ただけだし」
私と実花子は顔を見合わせ言葉を失った。
とりあえず遊びたいから、なんてふざけた理由で大学に来ていたなんて信じられない。
「あ、泉。レポート頼むわ」
悪びれもせず私にレポート用紙を突き付け、ラーメンを食べ終えた彼は席を立った。
予鈴が鳴り、実花子と講義室へ向かう。
階段を上りきると、廊下で朱鳥と彼が並んで歩いているのが見えた。
楽しそうに談笑している彼の、幸せそうな表情は私に向けられる事はない。
この先もずっと。
そう思うと何故か無性に悲しくなった。
私達に気付き、二人はこちらを振り返る。
「泉~!実花~!」
穏やかに微笑む朱鳥…私はどんなにあがいたって敵わない。
堪らずその場から逃げ出した。
「ちょっと…泉っ!?」
側にいれればそれでよかった。
だけどもう、ただ好きだからなんて生ぬるい気持ちじゃもう側にいられない。
この想いは叶わないと分かっていて彼を想い続ける事が、いつの間にか苦痛になっていた。
だけど今すぐ諦める勇気もなく、彼に無関心になられる事はやっぱり怖くて。
彼は私の全てで、それだけで過ごしたこの三年が私の心を虚しくさせた。
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