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食堂のカフェ、いつもの席に座らされた。
久しぶりに見るその顔はやっぱり見とれるくらい男前だった。
ホレボレしている私の額に彼の鉄拳が飛んできた。
「いっ…たぁい!何すんのよ!」
「やかましい!てめぇ俺を避けるとはいい度胸してんじゃねぇか」
眉間に深いシワを刻み睨み付ける彼は、怒ってるはずなのに笑ってるように見える。
…いい事あったんだ。
「だから別に避けてないよ。私だって忙しいんだよ?進路の事とか」
そう言って資料を机に叩きつけた。
彼は何も言わず、試すような視線を投げかけ私の様子を伺っていた。
嬉しそうに口元を緩めて。
「朱鳥に告白したの?」
聞くまでもない。
こんな嬉しそうな顔を見たことがない。
私は誰よりも彼の変化に敏感だと自信を持って言える。
故に知りたくもない事実まで見えてしまう。
「朱鳥は関係ないだろ?俺は今お前と喋ってんの」
ニカッと笑いはぐらかすと、彼はもう一発私の額を殴り付ける。
その態度に私の我慢は限界を迎えたようだった。
もう耐えられない。
私は無言で立ち上がり彼に背を向け歩き出した。
「おい…ちょっと待てよ!泉!」
強引に腕を引かれ立ち止まる。
「何だよお前、最近おかしくね?」
中途半端に気にかけられても迷惑なだけだ。
私の気持ちも知らないで、この時程彼の無神経さに腹が立った事はない。
捕まれた手を思い切り振り払い彼を睨んだ。
「私は本気でシンちゃんが好きなの。いつも冗談で言ってた訳じゃないんだよ?」
怒る彼を前に、今度は私が怒りをぶつけた。
「泉、俺は…」
みるみる申し訳なさそうな顔をする彼に、私の胸が悲鳴を上げた。
その続きが聞きたくなくて、彼の言葉を遮る。
「半端な気持ちで私に近づかないで」
唖然とする彼を残し、振り切るように走った。
以前の私ならこんな事絶対言わなかった。
自ら突き放すような真似なんてできるはずもなかった。
彼が誰を好きでも構わない。
そう思ってたはずなのに。
今までだって散々フラれてきてるのに、いざとなると面と向かってフラレるのが怖かった。
彼が幸せならそれでいい。
忘れてしまえばいいだけの事なんだから。
忘れ方なんて分からないけど、時の流れに身を任そう。
私はやっと、終わりへの一歩を踏み出せた気がした。
だけど忘れる事は私が過ごした三年を否定する事になる。
それが悲しくて涙が止まらなかった。
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