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七回戦
ダブる事もなく四回生になった秋。
進路が決まり、大学へ来る同じ学部の学生もまばらになってきている。
私は特にやりたい事も見つからないまま、大学院へ進むことにした。
単位さえ取ればいいだけのこの状況、私は卒論作成のためこうして毎日大学へ通っている。
顔を合わせづらい彼と出会う回数も激減し、何となく気が楽だった。
どうせもうすぐ卒業なんだし、このまま曖昧に忘れていくのが一番なのかもしれない。
いずれはバラバラになるんだから会わなければきっと忘れていく。
燃えるような恋心はすっかり勢いをなくし、心の奥底でわずかにくすぶるだけ。
これでいいと思うのに、私の心は晴れなかった。
もう随分と彼の顔を見ていない。
彼に始まった大学生活は、彼への想いを何となく引きずったまま幕を閉じようとしていた。
私は一人でお酒を飲むようになった。
切なさとか淋しさとか、彼にまつわる辛い気持ちを酔っている間は忘れる事ができたから。
その日も一人、テレビを見ながら飲みふけっていた。
充電中の携帯が鳴り、床を這いつくばって手に取る。
着信は実花子からだった。
「あ、泉?何、また飲んでるの?見せたいものがあるから、今から行くね」
電話は一方的に切れ、床にへたばったままぼんやりと携帯を見つめた。
程なくして実花子が来た。
コンビニの袋にはお酒ばかりが入っている。
「たまには一緒に飲もうよ」
実花子と会うのも久々で、私は快く彼女を迎え入れた。
「これ、先生が貸してくれたの。泉に見せたいと思って」
そう言って取り出したのはビデオテープだった。
「何?何のビデオ?」
実花子は意味深に笑うと、ビデオをデッキに入れ再生ボタンを押した。
画面には懐かしい光景が広がる。
「これって、一年の時の?」
実花子を見て尋ねると、嬉しそうに笑って答えた。
「うん、研修旅行」
よく覚えている。
この頃の私はただひたすらに彼が好きで、恋をする楽しさを思う存分味わっていた。
実花子と仲良くなったのもこの旅行のおかげだった。
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