火蓋は切って落とされた

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入学式当日、私は運命の出会いをする事になる。 各学科の新入生がひしめく体育館の、むせかえる温度に軽い目眩を覚えた。 前屈みに座っていると、誰かが私の肩に手をかけた。 「大丈夫?」 顔を上げると小綺麗な顔した兄ちゃんが覗き込んでいた。 ドッキー…ン!!!!!! 何かが私の胸を貫いた気がした。 ちょ、やだ何この人すごくかっこいい! しかもこの人…昨日のシトラスマン(仮名)だ! こんなつまんない大学に入ってしまって、人生終わったと思ったけど…そんな事はない。 いや、むしろ私は彼に会うためにここへ来たんだとさえ思えた。 私は急速に恋に落ちた。 今まで経験してきた恋愛の数々がかすんで見える程、私は彼に夢中になった。 まさに恋は盲目状態。 私は気分の悪さも忘れて彼の手を鷲掴みした。 「あのっ!す、好きです!」 一瞬の沈黙。 彼は明らかに迷惑そうな顔をして冷ややかに言い放った。 「は?バカじゃねぇの?」 この日から私はフラれ人生を突っ走る事になる。 ─────────────── 今考えたら全く彼の言う通り、バカなんだと思う。 初めて会った得体の知れない女にいきなり好きだと言われても、迷惑以外の何物でもない。 相手の事を知りもしないで好きだと言った自分の神経も疑う。 でもどうしても諦められなかった。 付き合いたいとか、そんなレベルじゃない。 私は“手原真一”のその“存在”に惚れてしまったのだから。 この気持ちをどうやって伝えればいいのか、どう伝えればよかったのか、今考えても分からなかった。
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