41人が本棚に入れています
本棚に追加
一回戦
手原真一、彼は今まで出会った男と比べ物にならないくらいイイ男だった。
一目見た瞬間、私の中の何かがピッタリとはまった。
その存在全てがツボだった。
私はとにかく必死に彼を求めていた。
何が欲しかったのかも分からないけど。
───────────────
今までの私は、好きな人に対してそこまで入れ込んだり積極的に攻めるような事はなかった。
だけど入学式以来、人が変わったかのように彼にアピールし続けていた。
自分でも分からない、妙な自信みたいなものが心にあった。
何より彼への想いが私を突き動かしていた。
「シンちゃん、おはよっ!」
毎日大学へ通うのは勉強する為じゃない。
彼の顔を見る為だ。
「うるせー!シンちゃんて呼ぶな」
あからさまに嫌そうな顔をしながら私に冷たい視線を投げかける。
理由はちゃんと分かってた。
私はこの時点で既に二回フラれている。
一回目は入学式(これは仕方がない)、二回目は先週行われた研修旅行だ。
学部内の親睦を深める為に行われたその旅行中、大学生活の抱負を一人ずつ発表するというイベントがあった。
夢を語る人、勉学に励む人、それぞれしっかりした目的を高らかに宣言していた。
「手原君の彼女になります!」
私は胸を張って宣言した。
周囲からは笑いと冷やかしの声が飛び交うけれど気にしない。
これが私の大学生活における目的で目標だったから。
そんな私に、彼はキッパリと言った。
「テメーだけは絶対好きになんかなんねーよ!」
どんなに冷たくつっぱねられてもへっちゃらだった。
私はいつからこんなにタフになったんだろう。
「おっ?今日も仲良しだなぁお二人さん」
ご挨拶とばかりに冷やかすのは彼の友達、英介。
一年先輩の英介は彼の幼なじみらしい。
英介は二年、彼は三年も浪人して大学へ入ったのだという。
茶化す英介をうっとおしそうに払いのける彼の姿にうっとり。
「泉もこりないよね~」
おっとりした口調の実花子がクスクス笑った。
実花子とは研修旅行で仲良くなって以来行動を共にしていた。
私達は自然と四人で一緒にいる形になっていた。
「一緒にいるんじゃなくて、お前が勝手に着いてまわってるだけだろが!」
彼はいつも迷惑そうにしてるのに何で私は離れられないんだろう。
「まぁいいじゃん!お前ら面白いし」
こうして笑い合う空気がいつの間にか私の居場所になっていた。
最初のコメントを投稿しよう!