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私が彼に惚れている事はみんなが知っていた。
そして彼が私を好きにはならないであろう事も、私を含めみんなが知っていた。
知ってる上で私は彼を好きでいた。
好きになってもらえなくても、嫌われなければそれでいい。
側にいれるなら、それだけでいい。
あの頃私は本気でそう思っていた。
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「てめぇ…マジでいい加減にしろよ…」
体育の授業を終えたばかりの彼は流れる汗もそのままに、怒りに震えながら私の目の前に立ちはだかった。
まさに水もしたたるいい男…!
「シンちゃんかっこよすぎ!もう大好き!」
抱きつこうと飛びかかる私の頭を押さえつけながら怒る。
「さっきのは何だ!うるせぇしうぜぇしムカつくんだよ!」
私はキョトンとした。
さっきの?
今日の体育は体力測定で、持久走だった。
彼はしなやかに走り、そのフォームにうっとりしていた。
他の人をぐんぐん追い抜いていく姿に私は心から声援を送った。
「シンちゃん頑張れー!一位になったらチューしちゃうー!」
叫んだ瞬間彼のスピードはがくっと落ち、結果はビリから三番目。
「お前のせいでいっつもコンビ扱いされるオレの身にもなれよ。バカか!」
怒りを通り越して呆れたような、冷ややかな目が私を見た。
「やっだぁ!シンちゃん照れてんの?可愛いー!」
「誰が照れるかー!」
話にならない、そんな風に彼は自分の眉間を揉んだ。
私は気にせず、その悩ましげな表情の彼をまじまじと見つめた。
「シンちゃん、色っぽい!濡れた体が素敵だわ~!もう大好き!」
ブチッと何かが切れる音がした。
周りはクスクス笑い出し、彼の顔はどんどん険しくなった。
「うるせぇ!ホントバカだろ!テメーと喋ってると血管切れそーになんだよ!いっぺん死んでこい!」
「男らしい!そんなとこも大好き!」
「オレはテメーみたいな女大嫌いだっ!」
こんな調子で私はあと何回フラれるんだろう。
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私はどんなに拒まれても彼への気持ちが揺らぐ事がなかった。
私の“すき”の言葉達に一つも嘘はなかった。
いつも本気で“すき”だったから。
その想いが叶わなくても良かった。
ただ、この異常なまでに彼を想う気持ちを分かって欲しかっただけ。
冷静になった今、それは無理な話だと思うけど。
不器用で単純だった私は、自分の気持ちを押しつける事でしか伝えられなかった。
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