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どんな事を書きたいのか聞いて、見あった資料を探し、自分のレポートそっちのけで彼のレポートに下書きをしていく。
「とりあえず下書きだけ。あとは自分の言葉で仕上げて?」
私は凝った肩を回した。
ある程度書き上げたレポートを、彼は感心したように眺めた。
「へぇ…大したもんだ」
私は自慢気に鼻を鳴らした。
「人間何か一つは取り柄があるもんだな」
「……」
彼はレポート用紙から顔を上げずに、でもしっかりと私に言った。
「ありがとな」
ドキッ!
その不意を付くような言葉に、私は黙り込んで俯いてしまった。
「泉、どうでもいいけど生物学のレポート今日までだよ?出来てるの?」
実花子に言われ、はたと自分のレポートが途中でほったらかしていたままだった事を思い出した。
「あぁー!」
「よし出来た。ご苦労!」
彼はさっさと仕上げて席を立った。
「そんな~!シンちゃん、私に愛のパワーを…」
言い切る前にノートで叩かれ、私は夜遅くまで図書館に残った。
それ以来、彼は私にレポートを頼むようになった。
私はこの時程、文章を書くのが好きで良かったと思った事はない。
大した役に立たないと思っていた特技が、思いがけず彼から話しかけて貰えるきっかけになったのだから。
私の全ては彼の為にある。
利用される事がこんなに嬉しいものだなんて初めて知った。
私はめでたく進級して、彼が専攻する講義は迷わず取った。
「今年も一緒だねシンちゃん!」
満面の笑顔の私とは打って変わって、ウンザリと頭を抱える彼に甘えた。
「一緒だね、じゃねー!ストーカーかてめえはっ!」
ひっつく私を引き剥がしてシッシッと追い払う。
嫌がる姿もかっこよくて、私は一年間フラれまくったにも関わらずメロメロだった。
そんな私達は大学内でも有名になっていたけど、そんなのは関係なかった。
私が彼を好きだという事実は変わらないから。
自分でも不思議な程、この想いは変わらない、そう思えた。
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友達なんかいらなかった。
勉強だってどうでも良かった。
あの頃の私は盲目的に彼だけを好きだった。
どんなに嫌がられていても、彼と過ごした日々全てが私の思い出になっている。
楽しい思い出ではないけれど。
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