二回戦

2/2
前へ
/39ページ
次へ
どんな事を書きたいのか聞いて、見あった資料を探し、自分のレポートそっちのけで彼のレポートに下書きをしていく。 「とりあえず下書きだけ。あとは自分の言葉で仕上げて?」 私は凝った肩を回した。 ある程度書き上げたレポートを、彼は感心したように眺めた。 「へぇ…大したもんだ」 私は自慢気に鼻を鳴らした。 「人間何か一つは取り柄があるもんだな」 「……」 彼はレポート用紙から顔を上げずに、でもしっかりと私に言った。 「ありがとな」 ドキッ! その不意を付くような言葉に、私は黙り込んで俯いてしまった。 「泉、どうでもいいけど生物学のレポート今日までだよ?出来てるの?」 実花子に言われ、はたと自分のレポートが途中でほったらかしていたままだった事を思い出した。 「あぁー!」 「よし出来た。ご苦労!」 彼はさっさと仕上げて席を立った。 「そんな~!シンちゃん、私に愛のパワーを…」 言い切る前にノートで叩かれ、私は夜遅くまで図書館に残った。 それ以来、彼は私にレポートを頼むようになった。 私はこの時程、文章を書くのが好きで良かったと思った事はない。 大した役に立たないと思っていた特技が、思いがけず彼から話しかけて貰えるきっかけになったのだから。 私の全ては彼の為にある。 利用される事がこんなに嬉しいものだなんて初めて知った。 私はめでたく進級して、彼が専攻する講義は迷わず取った。 「今年も一緒だねシンちゃん!」 満面の笑顔の私とは打って変わって、ウンザリと頭を抱える彼に甘えた。 「一緒だね、じゃねー!ストーカーかてめえはっ!」 ひっつく私を引き剥がしてシッシッと追い払う。 嫌がる姿もかっこよくて、私は一年間フラれまくったにも関わらずメロメロだった。 そんな私達は大学内でも有名になっていたけど、そんなのは関係なかった。 私が彼を好きだという事実は変わらないから。 自分でも不思議な程、この想いは変わらない、そう思えた。 ─────────────── 友達なんかいらなかった。 勉強だってどうでも良かった。 あの頃の私は盲目的に彼だけを好きだった。 どんなに嫌がられていても、彼と過ごした日々全てが私の思い出になっている。 楽しい思い出ではないけれど。
/39ページ

最初のコメントを投稿しよう!

41人が本棚に入れています
本棚に追加