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四回戦
この気持ちには続きもなければ終わりもない。
今私が彼を好きだという現実だけが、どこにも行けずにポツンとそこにあるだけ。
冷静に考えればどうするべきなのかは明らかだった。
彼の気持ちが私ではない誰かにあるのなら、彼の側にいる事が辛くなるのは目に見えている。
それなら私の見えない所で彼が好きな彼女と幸せになってくれればいい。
だけど冷静になればなる程、狂おしい程の彼への想いで押し潰されそうになる。
片思いがこんなに苦しいものだなんて知らなかった。
側にいるのが当たり前になり、四人でつるむのもまた当たり前になった三回生の春。
この頃から私は何となく彼に一定の距離を置くようになっていた。
周りからしてみれば「どこが?」といった感じだろうけど、彼の気持ちに気付いてしまって以来私の心に少しの迷いが生まれていた。
「おい、泉」
そしてこの頃から彼はよく私に話しかけてくるようになった。
突然名前を呼ばれてドキッとしてしまう。
飲み込みかけたコーヒーに思わずむせて咳き込んだ。
「し…シンちゃん!何?…ゲホッゲホ!」
「きったねぇなぁ…何してんだよ」
迷惑そうに顔をしかめ私の背中をさすってくれる彼の手にドキドキする。
私が触らないようにしてるのを知ってか知らずか、こんな風に自らスキンシップをとってくるようになった。
「まさか…ついに私の事を?」
きっと目がキラキラしてるであろう私の行動を先読みした彼が、私の頭を押さえつけた。
「うるせぇよバカ女!」
彼の制止により抱きつく事は叶わなかったけれど、それでも私は幸せな気分だった。
無条件に顔が緩む。
「何だよ気持ち悪ぃな…」
「何よぅ。声かけてきたのはシンちゃんでしょ?どうかしたの?」
彼は思い出したように話を切り出した。
「今日飲み会あんだけど、先輩がお前連れてこいってうるせぇんだよ」
ずっと一緒にいるけれど、大学の外で会う事は今までなかった。
思いもよらないお誘いに狂喜乱舞する私に彼はウンザリした様子。
その表情を見て、一瞬冷静な自分に戻る。
こんな風に私は気持ちの矛盾についていけないでいる。
辞めたはずのタバコをまた吸いはじめているのも、何となく落ち着かないから。
ポケットからタバコを取り出してくわえた。
「実花子も誘って来いよ。伝えたからな」
彼は足早に私の前から姿を消した。
その背中を煙の向こうに見ながら何だか切なくなった。
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