59人が本棚に入れています
本棚に追加
/36ページ
スズは真っ直ぐな人間である。
仮想世界に放り込まれ、工場の過酷な状況をものともせず、前だけを見る。
“工場を、皆を解放するのだ!”
眩しいばかりの聖女ジャンヌのようなその熱は、岳を巻き込み困難を跳ね退け、遂に天使を打ち倒したのだ―
絶体天使を倒し…新たな“天使”となったスズ。
彼女は何を想ったのだろうか。
このケータイがあれば現実世界に戻れる!
愛する岳と一緒にいたい。
仲良く手を繋いでデートもしてみたい。
二人で未来を見ていたかった。
…だけど。
既に彼女の現実世界は(幸福論によってか、意思を失いつつあることによってか)本人にはとても耐えられない、悲惨な状態になっていた。
帰れば、生きていくためにそうした現実が待っているのだ。
そして何よりも、この仮想世界の人々を見捨てられるだろうか?
苦労して、力を合わせて圧政から解放した仲間達。
自分達がいなくなれば、この世界の人々はどうなってしまうのだろうか。
圧政を強いられてはいたが安全だった工場を捨て去り、そして自分達リーダーを失った人々は、これからどうなるのだろうか?
天使には、人類を救うという義務があるのだ。
…ならば、岳とこの世界を住み良く変えていくのはどうだろう。
二人で人々を導き、全てを解放するのだ。
新しい世界を作るのだ!
しかし。
《「君たち………選抜者は、この世界で暮らすうちに、現実世界を忘れてしまう。現実世界に残った肉体は、やがて意思を失い、不遇の死を迎えるのだ。」》
この世界は現実世界ではない。
このままここに留まれば、二人の肉体は死んでしまう!
愛する岳が、死んでしまうのだ。
スズは決断する。
自分は帰れない。
でも、岳は帰らなければならないのだ…!
最初のコメントを投稿しよう!