施政者のシステム

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仙人の壮絶な最期に見られるように、やはり二つの世界は幸福論でリンクされているのだろうか…? しかしながら、これは真実ではないだろうと言わざるを得ない。 何故ならば、最終決戦を回避できぬと考えた天使が、こんなことを岳に明かすからだ。 《「君たち………選抜者は、この世界で暮らすうちに、現実世界を忘れてしまう。現実世界に残った肉体は、やがて意思を失い、不遇の死を迎えるのだ。」》 幸福論は何処へ行ってしまったのだろうか? 仮想世界で何をしようとも、何を考え、どの程度の幸福と不幸を感じようとも、結局現実世界の肉体は非業の死を遂げてしまうのである! これはあまりにも酷い話だ…。 この事象だけを抜き出せば、幸福論はまったく機能していないことがわかる。 しかし考えてみれば最初から岳達は双方の世界に存在していたわけではない。 現実世界から仮想世界へ精神が引き込まれたわけであり、元々0の世界に対し幸福の総量などというルールが適用されるはずはない。 こうして考えると、岳が垣間見た不幸な自分自身は、精神が離れ、理性が失われつつある肉体が暴走している姿だったではないのだろうか。 流されやすくなり精神失調気味になり…端から見ればそれはあたかも“不幸になった”ように見えるだろう。 結果として、天使は嘘を吐いていたのである。 幸福論という施政者のシステムを。 それは搾取するための足枷だ。 この世界を良くしようと動けば酷いことになるぞ、という昔ながらの脅し文句。 羊を飼い慣らし狼に判断を迷わす為の呪文として、天使は幸福論を仙人に刷り込んだ。 何故か? 天使はこの仮想世界の募集人であり、管理人であり、先導者であり、守護者だからである。
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