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仮想世界=書物の世界と仮定すると、幾つかの疑問が氷解する。
例えばメヰルを読んだ人なら間違いなく首を傾げる謎展開「岳達はなぜ突然魔法が使えるようになったのか?」だが、これもエルアーク用語を重ね合わせれば理解ができる。
メヰル世界で魔法が使えるのは三人…岳・スズ・仙人だ。
工場の描写を見る限り、この世界においても魔法は特別な能力のようだ。
三人の共通点は選抜者…天使によって現実から連れてこられ、精神と肉体が切り離された存在だ。
精神だけがこの世界に来ているが、肉体は相変わらず現実世界で生活しているということになる。
しかし…それでは物語の冒頭で岳が語る「人が消える」事件はどういうことなのだろうか。
《FMラジオから最近話題のニュースが流れている。この街から“人が消える”事件が立て続けに起こっているのだ。》
人が消えるのは天使によって消されているのは間違いない。
そうすると、ニュースになるほど人が消えるのだから魔法が使える人間が実はたくさんいるのだろうか?
収容された工場にも選抜者はいくらかは混じっているのかもしれないが、本編では岳達以外は見当たらない。
それにそもそも…精神が無くとも肉体が現実世界に残るというなら、ニュースになどなりはしない。
ではなぜ、岳達のように魔法が使え肉体が残る者がいる他方、肉体が残らず魔法も使えない選抜者がいるのか。
つまりエルアーク文法で言うならば、
肉体が残り魔法が使える岳達は、仮記名された“迷い人”だ。
“迷い人”は世界の理から外れているため、ルールに縛られない力―魔法―を扱うことが出来る。
肉体ごと消え失せた人々は本記名され、身も心も仮想世界の住人となったのではなかろうか。
天使も《「なるほど、君たちは特別な存在だ」》と認める通り、偶然か意図されてか、岳達は“迷い人”となったのである。
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