connecting mail

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ここまでの仮説で、メヰルの隠された秘密や、不条理に見える謎の多くは納得が出来るようになった。 だが、最大の謎と言える最後のメールがわからない。 岳に宛てたメールの意味がわからない。 《『さっきはごめん。やっぱり、会いたい』》 岳に送った最後のメール。 スズはどうしたかったのか? そんな惨めな自分自身を岳に見せたくないのではなかったか? なぜ愛する岳にそんな仕打ちを強いたのか…? 考察の前提として、これはラブストーリーである。 でなければ別れの涙に意味はない。 スズは間違いなく岳を愛していたのだ。 そしてメールが届いたとき、岳は失意の淵に沈み込んでいた。 スズに拒絶され放り出された彼は生ける屍といってよい状態だった。 このまま放置すれば、何をしでかすかわからない程に落ち込んでいた。 彼女は彼を救う方法を考えたのだ。 …私のことで苦しむなら、いっそ忘れてもらえば良いのだ。 現実世界にはもう戻れない。 仮想世界を支えなければならないからだ。 岳はいつまでも私のことを覚えていては、いけないのだ。 自分自身の一番見せたくない部分を、一番見せたくないはずの岳に見せる。 だがそれしか彼を救う方法、彼の苦悩を取り払う方法が思いつかなかったのだ。 彼女はケータイを使い現実の肉体に降り立ち、最期に岳と会うためにファンデーションを塗り、口紅を引いた。 たぶん岳と会うのはこれが最期―― 岳が私のことを蔑み、嫌いになってくれれば良いのだ。 大好きで、大切な岳が、私のことを嫌いに― 涙をこらえながらマスカラを引き、彼女は身支度をして歌舞伎町へ向かう。 適当に見つけ出した中年男に声をかけ、岳の待ち合わせ時間に合わせて待ち合わせをする。 ――岳。 大切な岳。 一緒にここで星を見たっけ。 はにかんだ顔で笑いあったあの夜―― ――来た。 道路の向こうに岳がいる。 笑いかけたい… 岳に、触れてみたい。 でも今は、岳に私の姿を、他の男に甘える私の嫌な姿を、見せなければ―― さようなら岳。 私の愛しい岳―― だが、短い悲鳴が上がり、突然振りほどかれる腕。 ―え? 振り返ると、そこに岳がいた。 「――はじめまして。また会えたね。」 あの時と変わらない笑顔のまま、岳が笑う。 煌めく銀色の輝き― ―そして、二人は、永遠を巡る旅に出たのだ。
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