プロローグ

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「今度、オフで会いませんか?」 『寂しがり』がそんな誘いを受けたのは、そのサークル『サイバーカフェ』に入団してから一月程経った頃だった。 サイバーカフェは、その名の通り現実世界では無く電脳世界に存在するサークルで、六人の人間が参加している。 まずリーダの『.com』(どっとこむ) このサークルの主催者で、寂しがりを誘ったのも彼(彼女?)だった。 次に『324929』(みによくつく) ピンクの兎をイメージさせる名前だが、本人いわく、自分は医者らしい。まあ、医者がこんなサークルに参加するのか、という疑問は付いて来るが、そこはネットの上での話し、自分の職業どころか、性別さえも欺いている人間もいるのだから、大した問題ではない。 次に『パシリマシン』 彼(彼女?)はいつもチャットの席において、やたらと他の団員に絡んでくる奴だった。だから団員からは嫌われているのだが、何故だか.comだけとは、仲が良いみたいだ。 次に『倦怠ちゃん』 彼女(彼?)は自称女で、サークル内で唯一寂しがりと同性の人間だ。なんでも占いが得意だと話した事がある。 最後に『ぼう縁凶』 彼(彼女?)は「ぼうは望にも亡にも防にもなる」とチャットの自己紹介で言って来た人間だった。寂しがりは密かに無愛想かも、と思ったものだ。 寂しがりは「私は大歓迎です」と送り返す。次いで、続々と他のメンバからも返事がいく。 「いいな。今度オフ出会いましょう、てか」とパシリマシン。 「わたしも行かせて頂きます」と倦怠ちゃん。 「わかった」がぼう縁凶。 「スケジュールが空いていたらな」が324929。多分確実に空けるだろう。 「よかった。詳しい日時は後で掲載しますので。今度会う時には生身での出会いですね。楽しみにしています」 この文を見て、寂しがりは自前のノートパソコンを閉じて、ベッドに倒れ込む。 オフ会か…。慣れない事をして、大丈夫だろうか? 一抹の不安はあったものの、寂しがりは楽しい物になれば、と思っていたし、他のメンバの顔も見てみたかったから断らなかったのだ。 部屋の電気を消す前に、重たい瞼が寂しがりに当たる外界の光を、消した。
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