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「マリ、無理してでも大学に入っておいたほうがいいかもしれない」 「なぜ?」 「おまえは社会にたいする心構えが欠如しているから」 「ん。お兄ちゃんもそう言うかなぁ」 「うん、大学の四年間は社会に対する免疫をつくる時間と思えばいい。せっかく、親が学費を出してくれるって言うんなら、それに乗らないって手はないよ」 「そう。・・・考えてみる」 「お兄ちゃん?」 「うん?」 「おやすみなさい」 「うん」 ぼくはマリの寝息が規則的に聞こえるまで眠れなかった。 翌日、六時半に起きたぼくの目の前には、シャワーを浴びて学生服を着こみ、スクランブルエッグを作っているマリのけなげな姿が見えた。 「良く眠れたかい?」ぼくはシュラーフから抜け出して、ジーンズを穿き、身体を揉みほぐすための体操をした。やはり眠るのは布団が一番だ。 「一宿一飯の恩義です」と浪花節がかって、トーストにスクランブルエッグ、トマト・ジュースをテーブルに並べるマリ。どうせ、ぼくの冷蔵庫からの略奪品。 ぼくは天然パーマの頭を櫛でとかして、冷たい水で顔を洗い、歯をみがく。 「今日も元気で煙草が美味い」とマリ。 「マリ、煙草吸うの?」 「いいえ、お父さんの口癖」 「それだったら、今日も元気で煙草買うまい」って言うんだよ、とぼく。 「そうなの?」 「ぼくの個人的見解」 他愛のない話をしながら朝食をすませる。 テレビをつけると相変わらず年金問題のニュースを流している。ささやかな未来への投資。画面の時計が七時四十五分を表示している。
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