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「リンちゃん、ガールフレンドいないの?」とそんなぼくの胸のうちを汲みとったかのような突然の質問。 「唄ばかり歌っていちゃ、できません」と少し焦ってぶっきらぼうな口をきくぼく。 「だからおまえは良い詩が書けないんだ」とばっさりとテルさん。 「それでもぼくの唄の親衛隊と称する女の子は何人かいますよ」と絶望的にみえを張る。 「あたしもリンちゃんの唄、聞きたいな」とまんざらではないシマさん。 「他人の唄を歌っているリンはまだましなんだ」 「あたし竹内まりやの『人生の扉』って好きよ、あんな唄のように年が取れたらなあって思うもの」 「それ、ぼくのレパートリーにはいっています」と意気込むぼく。 「あの唄はぼくも好きだよ」とテルさん。 「でも、リンにはまだ早いんじゃない?」と余計なお世話。 「いつか聞かせてね」とウインクするシマさん。 ぼくはうなずいて、どぎまぎした胸の内とともにジャンバレイアをほおばる。 店内のボブ・ディランが早いスリー・フィンガー奏法をはじめる。 「ドント・スィンク・トゥワイス・イッツ・オールライト」 「くよくよしてもはじまらない、これでいいんだ」とぼくの背中で囁やいていた。
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