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それでも時々、チラチラと蒼空を見ては、何度も何度も話しかけようとしてなかなか言葉が出てこないでいた。
やはりここは自分から謝るべきだと蒼空は思っていた。昨日のあの態度はきっと彼女を傷つけたに違いないし、それに1日中こんな嫌な雰囲気でいるのもやめたかった。
授業が終わる合図のチャイムが鳴り、「結局言えなかった」と言わんばかりの空気を漂わせて帰ろうとする彩華に、蒼空は声をかけた。
「ごめん、彩華。昨日は僕が悪かった。」
昨日やついこの前までとは全く違う優しい声がして、彩華は信じられないといった風な顔をした。
「えっ……。大河、くん?怒ってないの?」
蒼空がふるふると首を振る。
「怒ってない。アレは……怖くて逃げ出してしまった僕が悪い。」
「でもっ、それでもごめんなさい、大河くん。私っ……。」
「―――蒼空。蒼空でいいよ、彩華。」
彼はやっぱり狼みたいな人なんかじゃないと彩華は思えた。蒼空はこんなにも優しいじゃないか、と。
それに、やっと蒼空の本当の姿を見られた気がして嬉しかった。
初めて下の名前で呼ばれたことに、とてもドキドキした――。
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