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「オレがそのことを言ってしまったら・・・・あいつのプライドを傷つけちまうよ。」
司はなぜか悲しげにそう言って、それ以上何も答えてはくれなかった。
やっぱり気になる。
昨日のあの後、蒼空は一人早退していってしまった。彼に「どうしたの?」って聞いても・・・。
「うん・・・。僕、ちょっと用事あるから帰るよ。」
それだけ言ってさっさと帰ってしまったのだ。今日は日曜日で学校が休みだから、理由を聞きたくても聞けないし、第一まだ蒼空の家もどこなのか知らなかった。
「はぁ・・・・。」
何もする気力もなくただ何となく空を見ていると、近所の子供達がバットとグローブを手に元気に走っていく姿が見えた。後から遅れてきた子供があわてて走っていく。それも何となく目で追っていき、やがて見えなくなる。
~♪
その時彩華のケータイからテンポの良い着メロが鳴った。ケータイの画面を見てそれが友達からの着信だと知り、そっとため息をついた。今はあまり乗り気ではないけれど出ないのもなんだか悪いので、仕方なく通話のボタンを押す。
“「ちょっとちょっと彩華っ、聞いてーっ!」”
耳が痛くなるようなキーの高い声が聞こえて、彩華はとっさにケータイを耳からはなした。軽く耳鳴りがする。なんて声だ。
“「今日ね~、有名なパティシエがやってる店でケーキバイキングやるんだってー!彩華も行くでしょー!?」”
それは行きたい、とても行きたい。けれど心の半分は全く乗り気じゃなかった。彼の事が気になって仕方ないのだ。
“「・・・・彩華?ちょっと聞いてる~?」”
「えっと、ごめん。ちょっと今日用事があって行けないみたい。」
“「・・・・あ、もしかして昨日の事気にしてる?」”
鋭い。親友の彼女にはすべてお見通しなのだろう。彩華が返事をしないでいると、彼女の方が先に話を続けてきた。
“「彩華、悩んでないで行動あるのみっ!女は度胸でしょっ!」”
なんだかとても勇気づけられた気がして少し心が軽くなった。
「うん。ありがと、がんばってみる。」
“「今回は引いてあげるけど、今度埋め合わせしてよね!・・・じゃ!!」”
一方的に電話が切られ、彩華は息をつく。
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