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「彩華、ちょっと来て。」
蒼空は彩華の手を取り、病院の中へと入っていく。
自動ドアを抜けた先は広く、沢山の椅子が置かれていた。「薬局」と書かれた部屋のカウンターに看護師さんが座っていて、患者さんの名前を呼んで薬の説明をしていた。ほかの場所に視線をうつすと、廊下の先には「内科」「整形外科」「放射線科」「眼科」など様々な科があり、いたって普通の総合病院の姿がそこにあった。
「蒼空、もう帰る所だったんじゃなかったの?」
蒼空はふるふると首を振り、近くの椅子に腰かける。彩華も仕方なく、隣に座る。
「ううん、さっき待ってる時間がヒマだったからちょっと外に出ただけ。そしたら彩華がいたから・・・。」
待ってる間?彩華は不思議に思った。いったい何を待っていたんだろう?
近くを医師や看護師達が通り過ぎていく。しかし皆、蒼空にニコニコと笑って手を振ってくれたり、「最近は大丈夫なのか?」などと気軽に声をかけてくる。それをまるでいつもの事かのように、軽く挨拶を返す蒼空がいた。
「―――大河 蒼空君。」
突如彼の名前が呼ばれて、彩華はキョロキョロとあたりを見回す。また誰か知り合いが来たのだろうか?
「ちょっと待ってて、彩華。」
蒼空はそう言って席を立ち、薬局の方へと歩いていく。
―――まさか。
『ねぇ、大河君て・・・どんな人?』
『彩華、またその話?だからぁ~授業はよくサボってたよ。体育の授業がある日なんかは必ずいないし。』
友達に以前、蒼空の事を聞いた事を思い出し―――彩華はすぐにその意味を理解した。
戻ってきた蒼空が手にしている袋を見て、彩華はますます現実であると知った。
「蒼空・・・・っ。」
彼はただ学校が嫌いだからとかいう理由でサボっている訳ではなかった。ちゃんとした理由があったからそうだったのだ。そんないつも大変な思いをしている蒼空に、なぜあんな事をを言ってしまったんだろう?
―――「今度の体育の授業の事だよぉ。」
―――「私とペアなんて・・・どうかなって思って。」
あの言葉はきっと・・・蒼空の心を深く傷つけてしまっただろう。
彩華は泣きそうになり、目に涙をうかべた。
「蒼空・・・・っ、ごめんなさいっ。私、何も知らなかったからっ。私っ・・・・すっごく傷つけたよね。」
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