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☆
さて、どうしたものか。
内心では頭を抱えながらも平静を装って小鳥と向き合う。
「信也、下拵え先にやらないと時間かかる」
「いや、先に説明してもらうよ。意味が分からない。なんで君がここで料理なんてするんだ」
それも、まるで食材が尽きたのを知っていたかのようなタイミングで。
「知ってたから」
「何をさ」
「ご飯がないのを。信也が困ってるのを」
「だからなんで───!」
「信也のお母さんに、よろしくって、言われた」
肩すかしをくらった。
なんで母さんが出てくるんだ。いよいよ混乱してきた。
「今日から旅行に行くからって。面倒を見てほしいって」
だから今日学校で僕に話しかけてきたのか。
小鳥の家で説明を終えた時に僕は学校に行っていたのだろう。
多分、母さんは僕がまだ小鳥と仲がいいと思っている。
だから頼んでしまったんだ。
嘘をついていたことがこんな風に裏目に出るとは。
「信也。説明…終わったよ…? キッチン、借りる」
立ち上がろうとした小鳥に声をかける。
「いいや、君は帰るんだ。生活費は置いていってくれ。僕に世話役は必要ない」
ここで関係を断っておかないと後が面倒だ。 もう一度無関係な状態に戻す必要がある。幸い小鳥は僕の言う事を昔からよく聞いてくれたから────
「いや」
一瞬、何を言われたか分からなかった。
「いや。もし、まだ帰れって言うなら───おばさんに学校での信也のことを言う」
「なっ…」
あまつさえ、彼女は僕を脅してきた。
「おばさんは私に『いつも信也と仲良くしてくれてありがとう』って言った。私…仲良くしてない。だからする。嘘じゃなくて…本当にする」
主導権は既に奪われていた。
ビニールを持ってキッチンに向かう小鳥を見送ることしかできないほどに僕は心の中で狼狽していた。
論理が組たたない。
どうしたらいいのかわからない。
「待ってて。すぐ…作る」
返事すら出来ず、僕は椅子に座ったままため息をついた。
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