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わかってる。
だめなんだ。小鳥と関わっちゃいけないんだ。
なのに、十年振りのこの掛け合いが楽しくて、終わらせたくなくて、切ないほどに望んだもので────。
「───っ!」
無理やり自分を律して立ち上がる。
「僕は部屋に戻る。出来たら、呼んで」
「え…信也…?」
縋るような声に聞こえたのは、きっと僕の錯覚だ。
仲良く談笑してると思ったのは勘違いだ。
冷静になれ。
僕は、小鳥に近付くべきじゃない。
忘れるな。
小鳥は、幸せになるべきなんだ。
わかっているだろう。
それはきっと、僕の隣では成り立たないのだと。
小鳥を照らすのは月じゃない。
太陽だ。
強い光を反射して、輝いているように見えて本当はなにもない月なんて彼女の近くに在るべきじゃないんだ。
繰り返せば虚しく心を削るだけと知っていながら僕は何度も自問自答する。
削って削って、いつか『一緒にいたい』と感じる心がなくなることを願いながら。
☆
十年振りの新メニューは焼き魚と唐揚げ。
下拵えが必要だったのは唐揚げだろう。
「信也、美味しい?」
「……」
さっきのが最後の会話と僕は決めていた。
ようは、小鳥が嫌になって自発的に止めるようにすれば言い訳だ。
「信也…?」
「………」
無心。
ただ心の中で美味しさを噛み締める。
そんな風にただ無視をしていると、小鳥はすっくと立ち上がった。
そのまま黙ってなにやら作業を始める。まだなにか作っているようだ。
無駄なのに。
どんなに美味しい料理を持ってこようと、僕はうっかり感想を漏らしたりはしない。
絶対の自信を持ちながら僕は箸を進めた。
ぺたぺたとスリッパを鳴らしながら戻ってくると、机の真ん中より僕寄りの場所に力強く銀色に輝くボールを置いた。
「会話のない食事…楽しくない。楽しくないならいっぱい食べない。なら…嫌いなものも食べなきゃダメ」
大量にスライスされたトマト。見ただけでせっかく食べた物を戻しそうになる。とりあえず無視して食べようとした僕に小鳥は。
「残したら…バラす」
死刑宣告をしてきた。
こうなれば無視は出来ず、食べることも出来ない僕は感想を言うしかない。いよいよ勝てる気がしない。
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