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一枚も二枚も小鳥の方が上だった。まさかこんなにしたたかに育っているとは。
トマトは食べた時点で吐いてしまうため選択肢にない。諦めて料理の感想を言うことにした。
「美味しい…よ。びっくりした」
「…違う。嘘を聞きたいんじゃなく…感想…」
「は? なにが嘘なの?」
「……なんでもない」
きょとんとしてしまった。きっと僕は今かなり間抜けな顔をしているだろう。
「…食べなくていい。私…食べる」
自分の方に大量のトマトを引き寄せる小鳥。
その顔が嬉しそうに見えたのは気のせい───────────とは思い込めなかった。
僕でさえ初めて見る、満面の笑みだったから。
「信也…私、嘘ついた」
「嘘…?」
こくり、と頷く。
「生活費を置いていくことは…最初から…出来なかった。生活費はこのカードから」
真っ黒なそれは、上限額が文字通り天井知らずなカード。
「こんなカードだから…使った人を捜し当てるのは…簡単。
・・・・・・・
信也には渡すなっておばさんに言われてたから…私、渡せなかった」
ちょっと待て。
それは初耳だぞ。
おかしい。
今まで僕に任せていたはずの生活費をなんで小鳥に渡したんだ。
まるで、小鳥を無視できないように武器を渡したみたいだ。
「怒った…?」
「ううん。君は母さんに言われたことを守ったんでしょ。それに多分、今言いつけを一つ破った」
「────!」
予想外だったらしく、小鳥が目を見開く。
「生活費がカードだってこと……いや、僕に渡してはいけないっていうのは秘密だったはずだ」
小鳥を拒絶させない牽制のためなら最初から僕に言うだろう。それがなかったということは、一回でも僕が小鳥を拒絶した時点でなにかしらの動きをするということだ。
チャンスはない。
いや、まるで僕が小鳥を拒絶するとわかっていた風ですらある。
小鳥のしたたかな策がなければ僕は悠々と買い物に行ってカードを使っていただろう。
それを狙っていたような感じだ。
まさか母さん達は僕の状態に気付いているんだろうか。
その上で、僕が言い逃れできない証拠として小鳥を差し向けたのだとしたら説明がつく。
僕の性格を考えれば一番親しいのはなにがあっても小鳥だから、それを拒絶したら申し開きはできないのだ。
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