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でも────あの天然が気付く?
そんなはずはない。
昔からうちの親は小鳥を可愛いがっていたし、それを考えればそんなに変な話でもない。
僕が恥ずかしがって小鳥の申し出を断ることをさけたのだろう。
「小鳥、トマトは持って帰るといい。それ以外は食べ終わってるし、片付けくらいは僕がやるよ。あまり遅くならない方がいい」
しばらくトマトを見つめていたけれど、やがて小鳥は納得したように頷いてボールにサランラップで蓋をしてテトテト歩く。自分の分の食器を下げて、玄関に向かった。
「さて、これから…どうしたものか」
なにせ生活費を握られているということは、定期的に会わなければならないということだ。
十年ぶりの邂逅が、まさかこんなことになるとはさすがの僕も予想外だった。予想してないのだから対策もない。
最低でも学園を離れるまでは関わるつもりがなかった。
今でも必要以上に接触する気はない。
どうにかしてうまくやらなくては。
☆
勉強は一応、毎日する。
まさか華月の跡継ぎが勉強出来ませんでは話しにならない。
最低限、テストで20位くらいには入らないとマズい。
「あぁ、また新しい公式か」
うんざりしながら問題を解く。難しいわけではないのでほとんど作業のようなものだ。
数多く解けばいいというわけではないけれど、とりあえず安心はする。まだテストまでは間があるし焦る必要はないだろう。
ピンポーン。
時計に目をやれば、もう9時過ぎだ。
「小鳥…?」
なんとなく、そんな気がした。
階段を降りて玄関について、それでもその予感は消えない。
ドアを開けて、それが確信に変わる。
全く意味はわからないけどパジャマ姿の小鳥は枕を抱えて玄関に立っている。
「いったいどうしたの。忘れ物?」
「違う…。私の部屋、残ってるでしょ…?」
「小鳥の部屋って…そりゃ、まぁ建て直したりはしてないけど…なんのよう?」
余ってる部屋はうちにたくさんある。
そのうちの一室。小鳥、と書かれた表札がぶら下がる部屋が昔は小鳥の部屋だった。
必要な家具とベッドはもちろん完備している。
けれど、使われたのは何年も前だ。
「泊まる」
端的な答え。
けれど頭が処理をしようとしない。
「私…今日からここに住む」
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