黄昏

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『6月1日、午前零時に緑公園』 会社から帰宅するとポストに一通の手紙が届いていた。封筒、便箋にも送り主の名前は書かれていない。一通り目を通してゴミ箱に捨てた。 送り主は分かっている。一週間に一度、こうして日付、時間、場所を指定され、アタシはそこへ赴くのだ。 決して人に見られてはいけない。知られてはいけない。 「…アナタの為に、アタシは剣になる…。アナタの手は汚させない…そのために… アタシハ罪ヲ犯ス…」 クローゼットの奥。 いつも服の山で隠れている右下の角に、針が通るくらいの小さな穴がある。 馨はそこに、くの字型に曲げた細い鉄の棒を通した。くの字の先を上に向け、握っていた方を軽く押し下げた。 カコンと音が鳴り、縦長に切り取られた板が外れた。 そこだけ空洞が作られ、その中にある『物』を取り出した。 「6月1日午前零時って今夜じゃん。急すぎ…」 今、丁度午後7時になろうとしている。 ご飯とお風呂を済ませてしまおう。そういえば10時から見たいドラマがあった。それを見てから家を出れば丁度いい時間に緑公園に着ける。 馨は自分の手に握られている『物』を見下ろし、うっすらと笑みを浮かべた。
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