第一夜

4/6
前へ
/35ページ
次へ
人事異動か。アタシもできれば飛ばされたい。寧ろ首を切られても…と正直思うのだか、今のご時世にそんな贅沢な事は言っていられない。 人事異動などアタシに関係の無いことだと分かり切っている。人数の少ない課を、更に減らすなどという暴挙は上もしないだろう。 微かな希望もない物に期待しても哀しくなるだけだ。 あれから、アタシは何事もなく生活している。自分から関わりを持ったばかりに、レイプ紛いなものに遭遇したりした事もあったが、今となっては過去の事だ。当たり前の平和な生活がある。 平和…ね。 『何事もなく…』は自分の身の危険。しかし、あれから変わったことがある。 アタシは『鬼』になった。 いや、『鬼』になることを選ばざるを得なかった…。 「佐藤…おい」 「っはい!!」 「ぼーっとしてんな。仕事中だぞ」 「あ、すみません…」 あぁ、忘れていた。今日は課長の機嫌がすこぶる悪い。こんな時は無駄な刺激を与えないよう過ごすのが一番。やることだけやっていれば流石に文句を言われない。 終業時間になるとまた朝の話題でみんな盛り上がっていた。その間を縫って会社を出た。出たところで、シオンさんに会った。なんだかんだであれ以来、総務課にいく機会が無くなってしまったため、とても久し振りに思えた。 「シオンさん、お久し振りです。身体は大丈夫ですか…?」 「…あぁ、佐藤さん」 シオンさんはこちらに気付いて足を止めた。 「えぇ、もうすっかりよくなりました。といっても俺はそんなに酷くありませんでしたから…」 「そんな事ないじゃないですか…普通に生活していてあんな怪我しませんよ」 「…まぁ、あれ位は…」 そう言って困ったように薄く笑った。
/35ページ

最初のコメントを投稿しよう!

20人が本棚に入れています
本棚に追加