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人事異動か。アタシもできれば飛ばされたい。寧ろ首を切られても…と正直思うのだか、今のご時世にそんな贅沢な事は言っていられない。
人事異動などアタシに関係の無いことだと分かり切っている。人数の少ない課を、更に減らすなどという暴挙は上もしないだろう。
微かな希望もない物に期待しても哀しくなるだけだ。
あれから、アタシは何事もなく生活している。自分から関わりを持ったばかりに、レイプ紛いなものに遭遇したりした事もあったが、今となっては過去の事だ。当たり前の平和な生活がある。
平和…ね。
『何事もなく…』は自分の身の危険。しかし、あれから変わったことがある。
アタシは『鬼』になった。
いや、『鬼』になることを選ばざるを得なかった…。
「佐藤…おい」
「っはい!!」
「ぼーっとしてんな。仕事中だぞ」
「あ、すみません…」
あぁ、忘れていた。今日は課長の機嫌がすこぶる悪い。こんな時は無駄な刺激を与えないよう過ごすのが一番。やることだけやっていれば流石に文句を言われない。
終業時間になるとまた朝の話題でみんな盛り上がっていた。その間を縫って会社を出た。出たところで、シオンさんに会った。なんだかんだであれ以来、総務課にいく機会が無くなってしまったため、とても久し振りに思えた。
「シオンさん、お久し振りです。身体は大丈夫ですか…?」
「…あぁ、佐藤さん」
シオンさんはこちらに気付いて足を止めた。
「えぇ、もうすっかりよくなりました。といっても俺はそんなに酷くありませんでしたから…」
「そんな事ないじゃないですか…普通に生活していてあんな怪我しませんよ」
「…まぁ、あれ位は…」
そう言って困ったように薄く笑った。
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