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「あ、良かった。お目覚めかい?」
不意に耳に飛び込んできた優しい声。
ゆっくりと覚醒した晶はぼんやりと声の主を探した。
恐らくこの声は普段は軽薄な態度しか見せない、だがその実、一度懐に入れた者にはとても思いやり深い顔を見せる彼のものだろう。
しばらく視線を彷徨わせた後、寝床の脇に優しい微笑みを湛えた男性が座っているのを見つけた。
視線を彷徨わせている間に、ここがどうやら自身にあてがわれた部屋のようだということが確認できた晶はぼんやりと男性を見つめる。
何故自分も彼も、ここにいるのだろう。
まだぼんやりしている晶の額に、男性は手のひらをあてがった。
その手つきは慣れているようであり、同時に思いやりに満ちた温もりを持つものだった。
「・・・熱はないようだね。少しぼんやりしているみたいだけど、俺のことはわかる?」
「魏延・・・さん・・・?」
「ああ、大丈夫そうだ。ちょっと待ってて。扉の外で待機してる面々を呼んでくるから」
泣き黒子のある、垂れ目で妖艶さの漂う瞳を和ませて、彼は身を翻した。
紐で極細にまとめられた幾本もの長い髪が、彼の動きに合わせて晶の視界に波打つように翻る。
その背を見送りながら、晶はこのようなことになった経緯を思い出す。
(そうだ・・・私、倒れたんだ・・・)
そんな繊細なタイプではないはずなのに、倒れるほど動揺してしまったということだ。
勿論、こんなことは初めてである。
晶は両腕で目元を覆った。
倒れる直前に聞いた尚香の声が、未だに耳の奥に鮮明に木霊す。
「・・・智恵・・・」
確かに親友の名だった。
いや、同姓同名の線も捨てきれない。
頭ではそう必死に否定したがっているが、ならばこの異様なまでの悪寒はいったいどういうことなのだろう。
予感、とでも言うのかもしれない。
この時点で晶の直感は、既にその人物が親友であることを訴えて来ていた。
昔から嫌な予感はよく当たる方なのだ・・・全く嬉しくないが。
おそらく、呉の国にいるという『智恵』は彼女で間違いないだろう。
ならば何故彼女までもがこの時代にいるのだろうか。
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