第1章 蜀漢の章

121/130
前へ
/130ページ
次へ
魏延の言葉を聞いてようやく合点がいったのか、劉備も不思議そうな顔から一転、満面の笑みを湛えて晶の手を握った。 「なんだそのようなことを心配していたのか晶殿。私が晶殿を再び迎え入れることは既に周知の事実だ。むしろ反対する者がいたらその場で説教をしてくれる。だから不安に思うことなど何一つないぞ。私はとても寂しいが、晶殿がまた帰ってきてくれるというならば我慢しよう。待っておるから、早いうちに帰ってくるのだぞ」 晶は不覚にも、ちょっと泣きそうになった。 ただの大型わんこのくせに、人の心を動かすツボを的確に突いてくる。 それを無意識にやってしまうところがまた性質が悪い部分だろう。 劉備からの許しが出たことで、やっと晶は本当に安心できた。 誠実な彼のことだから、約束を違えることはまずない。 安心感は、微笑みという形で晶の顔に表れた。 「・・・・・・・・・あーもうダメだっ!!!」 ちょっとほっこりしていると、晶の頭を撫でていた魏延が突然大声を上げた。 何事かと振り向く暇もなく、彼女は魏延の懐に抱きこまれた。 魏延はなかなか長身なので、晶の頭部はちょうどすっぽりと彼の懐に納まる形になる。 晶はその瞬間まずいと思ったがもう遅い。 そのまま彼は晶を抱き潰す勢いでぎゅうぎゅうと抱きしめてきた。 恐らく誰もが、『始まった』と思っただろう。 その抱きしめている張本人は頬を上気させている。 「何この子超可愛いっ!!こんな不安でいっぱいの心細そうな目をされた後に安心したみたいに微笑むとか反則だろ!!庇護欲を掻き立てられるっての?んー堪らないっ!!」 「ぐえっ・・・魏延さ・・・く、苦しい・・・」 周囲は呆れたような視線を向けているが、最早呼吸停止寸前な晶にそんな余裕はない。 胸元を叩いてみようにも、腕ごと抱き潰されているので身動きが一切取れない状況である。 趙雲は魏延から難なく晶を引っぺがして背後に庇う。 晶はお礼を言うよりも先に咳き込んでしまい、背をさすられながら呼吸が整うのを待った。
/130ページ

最初のコメントを投稿しよう!

22人が本棚に入れています
本棚に追加