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ある程度落ち着いてから趙雲に礼を言い、涙目で魏延を見やると、彼は実に不服そうな顔をしていた。
ちょうど、お気に入りのおもちゃを取り上げられてむくれている子供のような表情に見える。
「ぶー、何で取り上げるのさ子龍様~。せっかく晶ちゃんを愛でてたのに~」
「愛でるのは結構だが、晶は愛玩動物じゃないんだぞ。むしろお前の愛で方は愛玩動物でも敵意を表するものだ。自覚しろ」
むくれている魏延を、バッサリと鮮やかに斬り捨ててしまった。
流石趙雲。
「えー」
「えーじゃない。晶の状態を見てみろ。ただでさえお前は腕力がずば抜けているのに、男性よりも遥かにか弱い女性にお前の全力をお見舞いなぞしたらひとたまりもない。それどころか加減を間違えれば圧死してしまうだろう。大丈夫か晶?」
最後の一言に対して、晶は首を縦に振って肯定の意を示した。
そう、魏延の腕力はこの蜀の国内においても5指に入るものである。
最初に兵士たちが投石用の石を1つずつ運搬しているところで、彼だけが10個ほどを一気に運んでいるのを見たときは目を?いたものだ。
勿論日頃から鍛えているはずの兵士たちが怠慢をしていたのではなく、彼らをもってしても、1つずつが限界だった程の重さの石だった。
それを彼は軽々と運搬してしまう。
また、丸々と太った食用の牛(重量はゆうに成人男性の5倍はあっただろう)を片手で持ち上げた日には、この人を怒らせないように気を付けようと思ったのも仕方がないことだろう。
それほど腕力に優れている人物だが、1つ困ったことがあるのだ。
普段はフェミニストというか、軟派者ではあるが女性に対しては実に紳士的な態度を取るので、身の危険を感じる者は少ない。
だが庇護欲が大変に強く、特に可愛いものやいじらしい態度などが彼の琴線に触れてしまうと、度々このようなことが起きるのだ。
早い話が、本人に悪気はないが腕力がずば抜け過ぎていて、命の危険を伴う可愛がられ方になるため、彼には可愛がられたくない、という共通認識なのだとか。
実はこの居城に女性が少ないのはひとえに劉禅と彼がいるから、という表向きには出来ない真実もあったりする。
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