第1章 蜀漢の章

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劉禅は何もしなくとも被害が広がるから、彼と比較すれば断然魏延の方がマシだが、先程趙雲が言った通り、女性にあのほぼ全力の腕力で抱き潰される行為に耐えられる者は少ないだろう。 晶も第3者として見るならば苦笑するだけで収められるが、当事者ともなれば、正直命がいくつあっても足りないのでご勘弁願いたい。 頻度としては自分の意思でどうにかできる分さほど多くはないが、うっかりこのような状態になってしまうと途端に身の危険を覚えなければならない。 晶自身は彼のことが嫌いなわけではないが、警戒せざるを得ないという寂しい状況であるのだ。 ようやく完全に呼吸が整った晶は、改めて魏延と視線を合わせた。 彼の方も興奮が冷めてきたのか、あちゃーといった顔をしている。 瞳には申し訳なさそうな光が宿っていた。 「あー・・・えーと・・・晶ちゃん、生きてる・・・?」 「とりあえず趙雲さんが助けてくださったので、今回は命に別状はないかと」 「う、意外に根に持つね・・・」 「そりゃあ命が関われば根に持ちますよ」 「スミマセン・・・」 実は晶が初めてこの現象に遭遇したときに、うっかり本気で圧死しそうになったことがある。 その当時はまだ鍛え始めていなかったし、何よりこの現象に免疫がなかったため、されるがままになってしまったのだ。 更に運が悪かったのは趙雲がその場にいなかったことだろう。 結果、見事に抱き潰された晶はほぼ半日意識不明に陥る重体となってしまったのである。 その時ばかりは流石の魏延も青くなって、意識が戻るまでずっと晶の看病を献身的に行ってくれたのだとか。 その時からしっかりと自制してくれるようになったらしいが、それでも気を付けていないとうっかりこの状況に陥る。 流石にまだ死にたくないし、死因が『抱き潰されたことによる圧死』だなんて死んでも死にきれない。 とはいうものの、彼はその部分以外はある程度常識を持っているし、もともと面倒見がいいためか晶を妹のように可愛がってくれるので、しゅんとしている様を見ると良心が痛む。 かなり複雑な人物ではあるが、なんだかんだで晶的には『いい人』の認識なのだ。
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