第1章 蜀漢の章

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「・・・ごめんね、うちの馬鹿阿呆屑糞親父が」 「や、そこまで罵詈雑言並べなくても・・・」 一国の姫君が発するものとはとても思えない言葉だが、実にわかりやすく尚香の苛立ちが盛り込まれた一言だった。 補足すると彼女はこの言葉を満面の笑顔で言い切った。 ・・・これでもかと言うほど怒っているのがよくわかる。 晶的にも確かに迷惑なことこの上ない提案だったのでフォローも控えめだ。 孫堅の爆弾発言の後、晶は大急ぎで出立の準備を行っている。 とは言っても、調度品等はあちらで揃えてくれると言うし、それ以外の晶の持ち物といえば劉備から下賜された嵐翔と、劉禅から下賜された着物くらいだろうか。 あとはこまごまとした装飾品等もある。 この国に来たばかりで戸惑う晶を、幹部の者たちはよく城下町などに連れ出してくれた。 その際に装飾品や手鏡など、連れ出してくれる人々から買ってもらっていた。 勿論ねだったわけではなく、皆親切心で買ってくれたものばかりである。 驚いたことに、趙雲や張飛や魏延ならまだしも、なんと関羽まで晶に物をくれたのである。 彼がくれたのは桜の花をモチーフにした繊細な作りの簪だった。 その作りの見事さと、関羽が物をくれたという衝撃から言葉を失っていた晶に、言い訳のように説明してくれた彼の姿は、恐らく一生忘れない自信がある。 【これはわたくしが潜入用に使用していた簪です。このような可愛らしい系のものは妖艶さを身に付けたわたくしには不釣り合いなので、仕方がないので貴女にお譲りします。いいですか、あくまで『お古』ですよ?べ、別に貴女の元気がないから買ってきてさしあげたわけではありませんからね!】 やばいツンデレ来ちゃったよどこまで極める気だこの人、と晶は本気で思った。 毒舌、高飛車、ナルシスト、女装癖持ちの変態さんでおまけにツンデレとは・・・改めて並べると友達少なそうだ。 しかしいくら言動がアレでも、彼が気を使ってくれたという事実があまりにも衝撃的だったので、その簪は大事に保管してある。 あまりにも綺麗なので使うことができないでいるという理由が半分。 そして使ったら使ったで、照れ隠しに関羽から一般的な次元を超えた嫌味を言われそうな気がしたので使っていないというのが半分。 というわけで現時点では保管しているだけにとどめている。
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