第1章 蜀漢の章

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「尚香殿~~~~~っっ!!!」 「あーはいはい、着いた時も同じ事やったような気がするんだけど、泣かないの玄徳様」 そして出立時間。 到着時にもほぼ同じ光景を見ていた晶は最早苦笑するしかなかった。 劉備が尚香にしがみついて早すぎる!!と駄々をこねているのだ。 まあ今回に関しては彼の言い分に同意したいところである。 何故孫堅がここまで急ごうとするか謎なのだ。 ちなみに何度尋ねてみてものらりくらりとかわされてしまって埒が明かないので、理由を問うことは早々に諦めた。 そしてこのたった2日の間に、晶は孫堅に対して警戒心を抱きはじめていた。 敵意があるわけではない。 むしろこちらが思わずドン引きしてしまいそうになるほど彼は友好的だ。 しかし時折、瞳の奥に底知れない光が見えるのである。 そして彼はその瞳を晶にだけ向けて、静かに見つめてくるのだ。 気のせいかもしれないとは思うが、どうしてもその意味深な瞳が脳裏に焼き付いてしまい、思わず体が強張ってしまっていた。 強いて言うなら、彼に対して晶が抱いている感情は『恐怖心』と表現できるだろう。 「あーあーやっぱし玄徳君が駄々っ子になっちゃったか~。ま、予想できてたけどさ」 そんなことを考えているところに、突然背後から本人の声がしたので晶は飛び上がらんばかりに驚いた。 「あーごめん驚かしちゃったか。荷物はあらかた積み終えたから、後は玄徳君が落ち着いたら出発できるよ。ちなみに行程だけど、嵐翔のこともあるから比較的ゆっくりで行こうと思っているんだ。たぶんひと月くらいで着けるんじゃないかと思ってる。あ、資金は俺たちが持ってるから心配しないで。いざとなったら俺が稼ぐから」 (・・・・・・・・・逞しい人だな) 流石行動派知識人。 いざとなれば旅慣れていそうな彼に任せれば大丈夫そうだと思う。 こんな風に普通に話せば気さくだし、いい人だとは思うのだが、と晶は複雑な気持ちになった。 この旅の間にイメージが払拭できればいいなと密かに願うばかりだ。
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