第1章 蜀漢の章

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そういえば、と晶はふと思い出す。 彼女は微妙に言葉が片言だった。 もしかすると、彼女も異国の人なのかもしれない。 だから晶にも親切に接してくれたのではないだろうか。 それに妙な事も言っていた。 (嘘の・・・色・・・?) 晶の心は嘘の色をしていないと、確かにそう言っていた。 心の色など見えるはずがない。 しかし孔明のような、異界から魔物を実験的に呼び出しちゃおうとするような(しかも呼び出した後は放置)妙な力を持つ者もいるわけだし、そういう人がここには普通に存在するものなのだろうか。 そんなことをぼんやりと考えていると、件の美女の声が聞こえた。 「雲長兄上、怒ったら駄目。疑い過ぎは友達、減る」 「ぶっ!!!」 何も飲んでいないのに吹いた。 そしてむせた。 しかしそんなことには気付かなかったようで、麗人は美女を睨む。 「余計なお世話です・・・」 「玄徳兄上」 その呼びかけにまたもや吹きそうになるのを気力で留めた。 人間の気力って馬鹿に出来ないもんだ。 「あの子の心、嘘の色してない。言ってること、全部本当。間者じゃないし、自分は玄徳兄上に、賛成」 「!!そうか!!」 途端に、劉備が心底嬉しそうに破顔する。 「最初からお前に確認して貰えば良かったな!しかしそうでなくとも、お前ならそう言ってくれると思っていたぞ翼徳!!」 「ぶふっ?!!!」 流石に今度は我慢できなかった。 まさかとは思っていたが、実際に名前を出されると衝撃は思ったより大きい。 「何してるんですか汚いですね」 いつの間にか隣に来ていた腹黒軍師(注:孔明)が軽蔑したような目で見てくる。 もはや晶の前で取り繕うのは面倒臭くなったようだ。 晶は引きつりかけた口元を気力で押さえ、一応確認の為に彼に問いかけた。 「えーと孔明さん・・・あのお二方はもしかして・・・」 「ああ、ご紹介がまだでしたね」 一応君主である劉備の前だからか、彼は輝くような笑顔を浮かべた。 ・・・・・・やはりどこからどう見ても裏がありまくる笑顔にしか見えない晶である。 無論、口に出したらどんな目に遭わされるかわかったものではないので黙っておく。
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