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さくさくと草を踏む音が近づいているというのに、恐怖のために固まってしまった体は言うことを聞かない。
そうこうしているうちに、その人物は彼女の真横まで辿り着き、ひょいっと顔を覗きこんできた。
「・・・っ?!!」
「おや、人を見つけたのですね。どうしましたかお嬢さん?」
そこでようやく相手の顔を見た晶は、今度は別の意味で絶句した。
屈んだ弾みで肩から零れた髪は美しく艶やかな漆黒。
切れ長の瞳にきりりと引き締まった眉。
それに加えて、落ち着いた低音の美声。
こんな造作の人間がこの世にいるなんて、いくら目の前にいるからと言ってもにわかには信じられないものである。
彼は固まっている晶に不思議そうな視線を投げ、そして今度は不思議そうに彼女の服を見下ろした。
「ふむ・・・それにしても不思議な服を着ていますね。貴女はどちらからいらっしゃったのですか?」
そこでハッと晶は覚醒した。
「ふ・・・服・・・?」
「ああ、言葉は通じますね、良かった」
爽やかで邪気のない笑顔でスパンと切り返された瞬間、晶の口元は引きつった。
何故だろう・・・輝くような笑顔なのに背後がどす黒い気がする・・・。
彼は晶の表情を無視して爽やかな笑顔で続けた。て爽やかな笑顔で続けた。
「いえ、貴女のお召し物は私とは明らかに違うものでしょう?それで不思議に思いまして」
爽やかな黒笑みに引き気味になりつつも、晶は彼の服に目をやった。
「・・・え?」
思わずポカンと口を開けたまま凝視してしまった。
ゆったりとした服に、羽扇を持ち、冠のようなものを被った姿には見覚えがある。
いままで大学のゼミの授業でも、専攻科目の授業でも散々見てきたスタイルだ。
もっとも、その姿は紙の上に描かれたものでしかなかったが。
ちなみに説明が遅れたが、晶は現在大学3年生であり、ゼミナールでは三国志演義を扱っている。
従って彼女がこれは夢だと思ったのも無理はないと言えよう。
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