第1章 蜀漢の章

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しかしその様子を見守っていた劉備は不思議そうに首を傾げた。 「孔明?何の話だ?何が不可能なのだ?」 「それはですね」 くるりと劉備を振り返った孔明は輝くような笑顔を崩すことなく説明した。 「彼女は元の世界に帰る方法はないのかと聞いているのです。勿論そんなものあるわけがないのですから不可能ですとお答えしたまででございます」 「をい」 思わず間発入れずに突っ込んでしまったが、晶にとってその発言は恐ろしいものだった。 帰る方法がないのであれば、自分はここで生きていかねばならない。 あまりの現実にようやく脳がそのことを理解し、晶は青ざめた。 (無理無理無理っ!!平和な世でのほほんと生きてきた私がいきなり戦国に飛ばされて無事に生きていられるわけないじゃないのっ!!流れ矢とかに当たってとっととおっ死ぬのが関の山だってッ!!!) だいたい、と晶は元凶となった孔明を睨む。 彼が面白半分の実験など思いつかなければ、晶は今も現代社会の中でのほほんと生きていられたはずなのだ。 聞くところによれば、その呪法とやらは元来、異界の魔物を呼び出すためのものだったらしい。 所詮古き時代の不確かなものと思っていたが、好奇心には勝てず、実験的に行ってみたところ、なんと反応があったのだと言う。 まさかとは思ったが、一応周辺を星藍に捜索させたところ、晶が見つかったというわけだったのだ。 孔明はわざとらしさ全開の哀れみのこもった視線で晶を見た。 「私も実験的に文献を読んで行っただけなので、まさか成功するとは思いませんでした。・・・我ながらこの才能が恐ろしい限りです。それに加え、使った文献も古いものだったため、残念ながらもとの世界に戻す方法などどこにも記載はありませんでした。不測の事態とはいえ、彼女には大変申し訳なく思います」 (嘘こけこの自画自賛男っ!!腹の中では絶対にほくそ笑んでるだろどう考えてもっ!!) ていうか仮にも天才軍師と称えられる頭脳持ってんなら予想外の事態が起こった時の想定もしておきなさいよっ!!と晶は腸が煮えくり返る思いで孔明を睨み続けた。 ところが何を思ったか、劉備はそれを聞いて目を輝かせているではないか。
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