奴隷の心得

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柚子が食後のコーヒーを淹れている間、五十嵐は顎に手を置いてじっと何かを考え込んでいた。 遠慮がちに五十嵐の前にコーヒーを置くと、五十嵐はふっと柚子の顔を見上げた。 「大丈夫ですよ、柚子さん」 「…………は?」 「社長は、嫌いな人間とは一秒でも一緒に呼吸をしたくないという人です。……まがりなりにも、貴方と同居するということは、嫌いではないということですよ」 「…………………」 意外なことを言われ、柚子は思わず黙り込んだ。 おもむろに五十嵐の向かいに腰を下ろし、じっと射るように五十嵐を見つめた。 「…………よく、ご存知なんですね、証のこと」 「そりゃ、秘書ですから」 「………それだけですか?」 「…………は?」 五十嵐は不思議そうに柚子を見つめ返した。 聞くべきかどうか柚子は迷ったが、逡巡の末に思い切って口を開いた。 「つまり、その……二人の関係は社長と秘書というよりも、もっと親密なものなんじゃないですか」 五十嵐は驚いたように瞠目した。 明らかに図星、といった表情だった。 「…………やっぱり」 柚子はハーッと溜息をつく。 「だって証、寝ぼけて私を抱きしめながら『陸』って言ったんです。あんまり親しげだからびっくりしちゃって」 「………………」 「あ、大丈夫です。私、同性愛に偏見はありませんから」 その瞬間、五十嵐はぶっと吹き出した。 そのままお腹を抱え、堪え切れないというようにクスクスと笑っている。 柚子は呆気にとられてしばらくぼんやりとそんな五十嵐を見つめていた。 「………あ、あのー…。五十嵐……さん?」 「………ああ、すみません」 五十嵐は涙を拭きながら身を起こした。 「気を使っていただいたのに申し訳ないですが、僕と社長は残念ながらそういった甘い関係ではありません」 「……………へ」 「従兄弟同士なんです」 五十嵐の言葉に、柚子は目を見開いた。  
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