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それからしばらくの押し問答の後、観念して柚子はドアを開けた。
すぐにドアを開けなかったことに怒っているのか、証は部屋に上がってからもムスッとした顔で座り込んでいる。
「言っとくけど、あんたに出すお茶なんかないわよ」
「心配すんな。俺は育ちがいいからこんな所で出されたお茶なんかに口は付けねぇよ」
カチンときて柚子は証を睨み付けたが、証は意に介さないように部屋の中を見渡した。
「しっかし、絵に描いたようなボロアパートだな」
「………家賃が安いのよ。てか、なんでここがわかったのよ」
「調べたから」
「調べ……? なんでまた……」
「店に行ってもいねーからだろ。せっかく指名してやろうと思ったのに」
「…………………」
「借金あるっつってたのに俺のせいで店辞めて、更に自殺なんかされたら寝覚めが悪いだろうが」
柚子は驚いて証の顔を見つめた。
「え…もしかして……心配してくれてたの?」
「は? ちげーよ、バカ」
証は思いっきり眉間に皺を寄せて言った。
「やっと見つけたのに、そんなに簡単に逃がしてたまるかよ」
「……………は」
「復讐だよ、復讐」
そう言って証はニヤッと笑ってみせた。
柚子は毒気を抜かれて黙り込む。
では、何か?
幼稚園の頃のイジメの復讐をする為にわざわざ家まで調べて訪ねてきたというのだろうか。
「ちっちゃい! あんた器ちっちゃい!」
「うるせぇ、それほどトラウマになってんだよ!」
たまらず柚子はバンッと小さなちゃぶ台を叩き付けた。
「冗談じゃない、付き合ってらんないわ! キャバクラ遊びしてるいいご身分のあんたみたいに暇じゃないのよ、こっちは!」
その言葉に証はムッとしたように身を乗り出した。
「好きで行ったんじゃねぇよ。接待だっつって、オッサン二人に無理矢理連れてかれたんだ。元々あんな所は大っ嫌いなんだよ!」
「………………」
────それであんなに無愛想だったのか。
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