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翌日、3千万入りのアタッシュケースを持った証が訪れた時、少なからず柚子は面食らった。
あれから証が帰った後、冷静になって考えてみてやはりからかわれたのではないかと思っていたからだ。
どう考えても、10ヶ月で3千万なんて垂涎な話が現実である訳がない。
そう結論付けて眠りについたのだが……。
「ほら、ちゃんと確認しろよ」
証はアタッシュケースを開いて中身を柚子に見せた。
だが六畳一間の畳の上でアタッシュケースの中にズラッと並んだ帯付きの札束があまりにもそぐわず、柚子はぼんやりとそれを見つめていた。
「おい、橘?」
「え、ああ、はい」
名を呼ばれて柚子はハッと顔を上げた。
「でも確認しろって言われても……」
「ああ、じゃあこっちはいい」
そう言うと証は懐から紙を一枚取り出して、柚子の前に置いた。
「一応ビジネスだからな。これにサインしろよ」
「…………え」
柚子は紙を手にして凝視した。
紙には契約書と書かれてある。
そこには今日より一日10万円で働くことや、決して証に逆らわないこと、契約を解消する時はすみやかに残りのお金を返金する旨などが書かれてあった。
「………………」
「了解なら名前書いて印鑑押せ」
ここへきて柚子はさすがに逡巡し始めていた。
昨日は勢いで返事したものの、奴隷という響きにはやはり若干の抵抗がある。
「……あのさぁ。私……痛いのとかマジ無理なんですけど」
「…………は?」
証は眉を寄せて柚子を見つめた。
「だってあんたドSでしょ。私言っとくけどMじゃないから」
「………………」
しばらく証は無言だったが、直後柚子の顎をつまんで強く仰向かせた。
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