奴隷の心得

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寝室に飛び込んだ柚子は、しばらくの間ベッドに突っ伏していた。 ただ怒りだけが込み上げてくる。 今は身動きするだけでも涙が零れそうで、柚子はじっとシーツを握りしめてそれを堪えた。 しばらくして、証が家を出て行った気配がした。 大学へ行ったのか、仕事へ行ったのか……。 本来なら『ご主人様』をお見送りしなければならないのだろうが、とてものことそんな気分にはなれなかった。 裸エプロンの一件で満足したのか、証もわざわざ柚子を呼びにきたりはしなかった。 (裸エプロン………) 右手にしっかりとエプロンを握りしめていることに気付いた柚子は、腹立ちまぎれにそれを床に叩き付けた。 (冗談じゃないわよ! こんなの完っ全に嫌がらせじゃないのっ!) 思わぬ形で陸とのことが柚子にバレて、しかもうっかり赤面し、動揺を晒してしまったことが許せなかったのだろう。 柚子が朝食の用意をしている間、この嫌がらせを考えていたのかと思うと証の器の小ささに憤りさえ覚える。 (………これが日当10万円の落とし穴か……) 奴隷という肩書で雇われた以上、ある程度の屈辱は耐えなければならないということか……。 何にしろ契約は契約だ。 証の命令には逆らえない。 今から後片付けもしなければならないし、掃除もしなければならない。 いつまでも腹を立てている場合ではないのだ。 気持ちを切り替えなければ。 (裸エプロン、上等じゃねーか!恥ずかしがる顔が見たいっつーんなら、逆に堂々としててやる!) 柚子はぎゅっと唇を噛みしめ、先程叩き付けたエプロンをゆっくりと拾いあげた。  
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