47633人が本棚に入れています
本棚に追加
(今日も指名ナシ……か)
待機室で携帯をいじりながら、柚子(ゆずこ)は深い溜息をついた。
キャバ嬢として働き始めてから二週間、未だ本指名どころか場内指名も入らない。
見た目は悪くないと思うのだが、何が自分に足りないというのだろう。
そもそも人に媚びたり愛想を振り撒くということが苦手なタチで、それでも自分なりに頑張っているつもりなのだが。
(………どうしよ。このままじゃ予想以上にお金になんないよ。お水=高収入だと考えてたのが甘かったわ……)
パチンと携帯を閉じ、柚子はチラッと店内に目を向けた。
No.1キャバ嬢の接客をじっと見つめる。
(あんな風にやってるつもりなんだけどな……)
再び溜息をついた時、ボーイが柚子を呼びに来た。
「ユズさーん。マリナさんのヘルプお願いしまーす」
「はーい」
ユズは柚子の源氏名である。
立ち上がり待機室を出ようとしたところで、ボーイがこそっと柚子に耳打ちした。
「よかったですね、ユズさん。当たりですよ」
「当たり?」
「新規のお客ですけど、有名な若社長らしいですよ。指名貰えたらいいですね」
「………頑張るわ」
素っ気なく答えて、柚子は待機室を後にした。
最初のコメントを投稿しよう!