奴隷の心得

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着替えを済ませて部屋を出ると、五十嵐はリビングで誰かと電話していた。 どうやら相手は証らしい。 「………はい、わかりました」 そう言うと五十嵐は電話を切り、立ちすくむ柚子に気が付いてゆっくりと振り返った。 柚子は恐縮して深く頭を下げる。 「あの……本当にすみませんでした。お、お見苦しいものを……」 「いえ」 五十嵐は困ったように微笑んだ。 幾分気持ちは落ち着いたのか、顔の赤みも消えている。 代わりに柚子は恥ずかしさで、いっそこのまま死にたいとさえ思った。 「あの……五十嵐さんは何故ここに? 私は証が6時に帰ってくると聞いてたんですけど……」 「書類を取りに行ってくれと言われたんです」 「………………」 (あんっの、クソドSーっ!!) 込み上げてくる怒りで、柚子の拳はプルプルと震え出した。 完全に柚子と五十嵐を鉢合わせさせる為の、証の嘘だ。 しかしいくらなんでもここまでやるだろうか。 柚子の脳裏に不意に証の言った『復讐』の2文字が浮かんだ。 (これは……生半可な気持ちじゃ、心身共にズタボロにされるかもしれないわ……) 現に今日一日で柚子の負った心身の疲労は尋常ではなかった。 「あの……それじゃあ、証は帰ってこないんですか?」 せっかく作った夕飯にちらっと目を向けると、五十嵐は申し訳なさそうに頷いた。 「はい。仕事で遅くなると。代わりに僕に食べていけと言われたんですが」 「…………え」 「差し支えなければ戴いてもよろしいですか。……聞きたいこともありますし」 五十嵐の言葉に、柚子は慌ててコクコクと首を縦に振った。 「は、はい! よければ食べて行ってください!」 頬を紅潮させてそう言う柚子を見て、五十嵐はにっこりと柔らかい笑みを浮かべた。  
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